昼は、鉄板焼きを食べた。女が、この地方の名物が食べたいと言ったからだ。なるべく上等な店を見つけ、入った。まずまず美味かった。
「ふう、美味しかった」
「この後は帰るだけだが、せっかくのコガネだ。ひとつ、買い物に付き合ってくれないか」
「了解です!」
通りを歩く。往来が、激しい。沢山の人とポケモンに溢れた、活気のある街だ。ガラガラは、人の多さに驚いているようだった。こうして、外に出して連れ歩くのも、もう少しで終わる。新鮮な感覚だった。いつも冷静なガラガラの、喜ぶ顔が沢山見れた。
「着いたぞ。ここだ」
「……」
表通りに面した宝石店。女は、少し驚いた顔をしていたが、店に入ると嬉しそうに店内を見回した。
「旅の記念だ。好きなものをひとつ、買ってやろう」
「えっ! あ、ありがとうございます! どれにしようかな……」
女はあたふたとしながら、イヤリング、ネックレス、指輪と見て回った。ゲンガーは不思議そうな顔をしながら、後ろを浮かんでついて行く。
「これにします」
女が選んだのは、シンプルなデザインのシルバーの指輪だった。
「これでいいのか? 石が付いたやつでもいいぞ」
「いいんです。こういうのなら、普段からつけられるし」
「そうか。……では、これをふたつ頂こう」
「ふたつ?」
「俺の分だ」
「……」
女の顔が、少し赤い。照れくさいのだろうか。支払いを済ませ、外に出た。
「さあ、キミのものだ。どうぞ」
「うん……ありがとう、ございます」
女は右手の薬指に指輪をはめた。じっと、自分の手を見つめている。
「いいのか、右手で」
「えっ……と……」
「では、俺は左手にしようか」
指輪を取り出し、左手の薬指にはめる。
「じゃ、じゃあ、わたしも左手にします……」
女の顔が、さらに赤くなった。指輪を左手に付け替える。幸せそうに、うっとりと自分の手を眺めていた。
「いずれ、もっといい物を買ってやろう。
では、行こうか」
指輪をはめた、左手を差し出す。女はこくりと頷いて手を握った。他の女に指輪を送ったことは何度かあるが、こんなに幸せそうにされた事はあっただろうか。初々しい反応が、良かった。
通りを、駅に向かって歩く。繋いだ手から、女の体温を感じる。暖かい。ふと、顔を見る。女は微笑んでいた。顔はまだ少し、赤い。
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