「さいみんじゅつ!」
女が次の命令をする。このゲンガーの得意とする技だ。スイクンがふらつく。効いているようだ。しばらくして、草むらに倒れこんだ。
「ゲンガー、ゆめくい!」
女が間髪を入れずに次の命令を飛ばす。ゲンガーが大きな口を開けた。相手が眠っていないと使えないが、攻撃と回復を兼ね備える強力な技だ。ゲンガーが口を閉じ、舌をべっと出した。
スイクンは、まだ起きない。苦しそうな表情で横たわり続けている。
「いけっ!」
女がボールを投げる。スイクンが、ボールに収まる。が、すぐに出て来てしまった。眠りからも覚めて、こちらを睨みつけている。
スイクンが、空に向かって吠えた。あまごいだ。晴れていた空に暗雲が垂れこめる。途端に雨が降り始めた。さらに、霧がかかってきた。恐らく、しろいきり。こちらの視界を奪い、くろいまなざしから逃れるつもりだ。
「ゲンガー! 見失っちゃダメ! しっかり見つめて!」
ゲンガーが前に出る。見失ってはいないようだ。しっかりとスイクンを見つめ続ける。
「ナイトヘッド!」
ゲンガーが、技を放つ。威力は高くないが、安定してダメージを与える技だ。スイクンは、苦しそうな声を上げる。だいぶ余裕がなくなって来たようだ。
「よし。ゲンガー、もう一度さいみんじゅつ。次で、決めるよ」
ゲンガーが、再びさいみんじゅつを狙う。スイクンは頭を動かして懸命に抵抗するが、程なくして草むらに倒れこんだ。
「よし、今度こそ!」
女がボールを投げる。緊張が、走る。ボールは数回揺れたが、やがて動きが止まった。
「やっ……た」
女が、その場に膝をつく。泣きそうな顔をしながら、ボールを見つめる。ゲンガーは、誇らしげだ。ニイと笑って、女の側に駆け寄る。
「ゲンガー、ありがとう」
女が、ゲンガーの頭を撫でる。ゲンガーはこの上なく嬉しそうだ。
「いや、素晴らしいものを見せてもらったよ。見事だ。捕獲、おめでとう」
「ありがとうございます」
女が微笑む。嬉しそうだ。伝説のポケモンを捕まえることが出来た。トレーナーとして、とても名誉な事だろう。
「よし。祝杯だ。コガネで、何か美味いものを食べよう」
「はい!」
女は、今度はにっこりと笑った。これでいい。いつも笑顔でいてくれれば、それ以上に望むことはない。
~ 7 ~