駅に着くと、リニアがちょうど来るところだった。ガラガラとゲンガーを、それぞれボールに戻す。
「楽しかったな。ゲンガーと外を歩くの。思ってたより、ずっと色んな顔するから面白かった」
「ああ。もっと、ボールから出してやった方がいいのかもしれないな」
座席に座る。リニアが、駅を離れた。しばし車窓を眺める。……ふと気がつくと、隣の女は、すやすやと眠っていた。いつもながら、愛らしい寝顔をしている。
今日も、朝から色んなことがあった。スイクンを追い回して、バトルもあった。疲れたのかもしれない。女を起こさないようにして、車内販売で雑誌を買った。ページをめくり、暇を潰しながら、時を過ごした。
「着いたぞ」
「ううん……あ、ありがとうございます。降りなきゃ」
女はまばたきを繰り返しながら、座席を立った。リニアを降りた。人は多いが、もうポケモンを出して歩いている者は居ない。旅の終わりを感じさせる風景だった。駅を出て、タマムシへ移動する。
「……充実した、2日間だった。短い間だったが、キミと旅が出来て、良かった」
「はい。私も、とっても楽しかったです」
「また行こう。ジョウトにはまだ行けていない場所もあるし、別に他の地方でもいい」
「わたしも。一緒に行けたら、どこでもいいです」
「うむ。何か思いついたら、また言ってくれ。
日程を調整するのが、一番大変だったな。明日からまたしばらく、忙しい」
「わたしも、また明日から頑張ります」
タマムシのアジトの、最奥の部屋。中に入ると、マイムが待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、サカキ様、教官殿。
楽しい旅行でしたか? なんて、言うまでもないですよね」
マイムはにっこりと微笑んだ。
「えへへ、ただいまです」
女が照れながら返事をする。
「視察だ、視察! あちらの奴らは、相変わらずだった。良くやってくれている。ほら、土産だ」
「まあ、ジョウト銘菓いかりまんじゅう!
私、大好きなんですこれ。早速、お茶を入れましょうか。たった2日でしたが、ご報告申し上げたい事が結構溜まっておりまして」
「頂こう。報告書は後でゆっくり読む。優先度の高い方から、手短にな」
「はい、少々お待ちください……」
この部屋に入ると、一気に日常に帰ってきた気分になる。明日からまた、忙しい毎日が始まる。忙しいのは嫌いではないが、少しだけ憂鬱だ。
ふと、左手を見た。指輪が輝いている。最後に、良い買い物をした。これからこの指輪を見るたびに、楽しかった旅の事を思い出せるだろう。
そんな事を考えているうちに、マイムが茶を運んできた。
~ 9 ~