西へ/北風を追う

鐘屋横丁

     

 キキョウに、着いた。エンジュ程ではないが、ここも観光地として人気が高い。景観は趣きがあり、人通りは多かった。
 マダツボミの塔へは、池を橋で渡る。この景色をゆっくりと歩きながら見られるように、橋がかけられているらしい。
「綺麗」
 女がぽつりと呟く。朝は曇っていたが、大分晴れてきた。青空を背景に塔が見える。美しい眺めだった。
「エンジュも良いが、キキョウもなかなかだろう。俺は、キキョウの方が好きだな」
「うん。どっちも素敵」
 マダツボミの塔に着いた。塔の中央には、大きな柱がある。上を見上げると、頂上まで柱は続いていた。少し、柱が揺れ動いているが、そういうもののようだ。
「中央の柱は大きなマダツボミの身体を模しています、だって。大きな地震があっても大丈夫って書いてある。凄いね」
 女はガイドブックを読みながらはしゃいでいる。女がはしゃぐと、ゲンガーも嬉しそうに跳ね回る。ゲンガーが嬉しそうだと、ガラガラもにこりと笑う。
「登ってみるか?」
「はい!」
 塔の頂上まで登った。3階建てなので、あまり高くはない。あちこちに、マダツボミを象った木像があった。かなり古い時代に建てられたらしいが、整備されており中は綺麗だ。マダツボミを連れた僧侶があちこちに居る。観光客らしき者も多かった。
 塔の廻縁に出て、外を眺めた。
「わあ、街が見渡せる」
 女は手すりから少し身を乗り出して、嬉しそうに街を眺めている。
 その横顔が、眩しく思える。色々あったが、この旅が出来て良かったと思う。女のために自分がしてやれる事は、探せばもっとあるのではないか、という気にもなった。もっと、笑顔が見たい。楽しそうにしている姿を、ずっと眺めていたい。
 ……きっと今の自分は、喜びに満ちた顔をしているのだろう。ガラガラが、とても嬉しそうにしている。頭を撫でる。鳴き声を上げて、尻尾を振った。


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