西へ/乾いた大地

鐘屋横丁

     

 日が、落ちようとしていた。辺りは、静かだ。夕陽に照らされて、水面は橙色に光る。夕焼けの空の下で眺める湖は、とても美しかった。
「綺麗」
 女が呟く。
「ああ。綺麗だ。キミと一緒に来れて、本当に良かった」
「本当?」
「本当だとも。美しいものを共有できるのは、嬉しい事だ」
「わたしも、嬉しい」
 しばらく、湖を眺めていた。静かだった。アポロの話では、この湖には実験で産み出された主が棲んでいるらしいが、そんな様子は感じられなかった。
「あっ、あそこ」
 女が指をさす。だが、そこに居たのは主では無かった。
「ヤミカラス!」
 1匹のヤミカラスが、湖の浅いところで水浴びをしていた。
「ほう、ちょうど良いところに」
「捕まえる?」
「ああ。行くぞ、ガラガラ」
 ガラガラは頷いた。ガラガラと共に、ヤミカラスに近づいた。ヤミカラスが、こちらに気づく。逃げる様子はなく、ガラガラに攻撃を仕掛けてきた。大きな嘴で、繰り返しつついて来る。
「ガラガラ、みねうちだ」
 加減しながら攻撃する技だ。ガラガラは深く頷き、何度かホネでヤミカラスを殴りつける。ヤミカラスが、ふらついた。くるりと背を向け、飛んで逃げようとする。ガラガラは追いかけ、また殴りつけた。ヤミカラスが、浅瀬に落ちた。ばしゃりと水音が鳴る。
「いいぞ、ガラガラ」
 空のボールを投げた。ヤミカラスがボールに入っていく。ボールは少し揺れたが、そのまま収まった。捕獲成功の証だ。
「良くやった」
 ボールを拾い、ガラガラの頭を撫でた。嬉しそうに鳴き声を漏らす。元の場所に戻ると、女が拍手をして待っていた。
「すごい。捕獲、おめでとうございます」
「ああ。なかなか、図太そうな奴だ。きっと強くなる」
 日が沈んだ。夕焼けが、空の端に追いやられる。もうすぐ夜が、こちらにやってくる。湖を後にして、エンジュへと戻った。


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