西へ/乾いた大地

鐘屋横丁

     

 少年達を、先程と同じ部屋に通した。アポロ達はぎょっとしていたが、茶を出すように命じると、従った。
 少年達は困惑しながら、落ち着かない様子でキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「こちらに座りなさい。客間ではないから、落ち着ける場所ではないが、今、なにか飲む物を持って来させるから。
 今日は、どうしてこんな所まで来たのか、話してもらおう」
「は、はい……」
 少年達はソファに腰掛けた。やがてテーブルの上に、茶と茶菓子が運ばれて来た。

「……。
 話をまとめると、こうか。
 君たちは、たまたまここの入り口を見つけた。探検気分で歩き回ると、やたらとロケット団員が出てくる。君たちは良きライバルだ。興が乗った。何人団員を倒せるかを競いながら進んだ。やがて奥へ進んだところで、私たちと戦うことになった」
「……はい」
「……」
 帽子の少年が返事をする。赤い髪の少年は黙ったまま、じっとこちらを見つめる。
「探検ごっこも、深入りは良くないだろう。
 人の家に入ったら泥棒だ。分かるね?」
「……」
「……」
 悪の組織が言う台詞ではない。そう言いたそうな顔が並ぶ。
「だが君たちは、良い目をしている。バトルも、まだまだ荒削りだが、強い方だ。
 特に赤い髪の、君。この状況でずっと、冷静なところがいい。
 ロケット団は、同志としてならいつでも君達を歓迎しよう。どうかね」
「!!」
 帽子の少年は、驚いていた。赤い髪の少年の表情は変わらない。が、ようやく口を開いた。
「……お断りだ。
 今日のところは、帰る。
 次は、潰す」
 冷静さと熱さを兼ね備えている。殆んど一方的にやられた相手を、潰すと言い放つ。この少年の事を、気に入り始めていた。
「そうか。
 ……以前にも、君達と同じように、我々の邪魔をする少女がいた。だが、今では私の頼れる右腕だ。気が変わったら、いつでも来たまえ」
「……」
 女は少し、恥ずかしそうにうつむく。初めて出会った時の事を、思い出しているのかもしれない。
「キミ。それから、アテナ。入り口まで、彼らを送ってやれ」
「はい」
「はっ」
 女と、アテナが返事をする。
 帽子の少年は、何度もこちらを振り返りながら去っていった。赤い髪の少年は、決して振り返らない。

 煙草に、火をつけた。
「先程は、感服致しました。
 少年達をただ諭すだけでなく、同志へお誘いになるとは」
 アポロが、興奮した様子で語る。
「失敗したがな。いかなる時でも、人材は貴重だ」
「バトルの方も、モニター越しに拝見致しました。サカキ様、教官殿。お二人とも、お見事で」
「教官殿は、強いぞ。かれこれ20回ほど本気で戦ったが、私が勝てたのはたったの1回だ」
「そんな、まさか」
「まさかと思うなら、戦ってみるといい。負けても、なんの恥にもならん」
「それ程までの腕前の少女を、よく手懐けられましたな。さすがサカキ様、素晴らしい事です。どのようになさいました」
「……。さてな。気づけば、懐かれていたよ。
 アポロ。ここのセキュリティは厳重だが、団員達が簡単に突破されるようではまだまだ甘い。
 団員達の訓練を、もっと積め」
「ははっ。誠に申し訳ございません」
 扉が開き、アテナと女が戻ってきた。煙草を、灰皿に押しつける。
「戻りました」
「なにか、話したか」
「はい。何故、ロケット団に居るのかを、問われました」
 女が、答える。少年達からすれば、ジムにもチャンピオンにも興味を示さない彼女の事は不思議に思えるのだろう。
「そうか。して、答えは」
「……。
 自分で、選んだ道だから。あとは、自分を必要としてくれる場所だから。そう答えました」
「悪くない答えだ。全ての団員は、軍団のために必要だ。私と、私の望みのために。
 その道を、自分で選んだというのも、良い。少年達には、やや難しい話かもしれないが」
「はい。分からない、という顔のまま去っていきました」
「そうだろうな。
 よし、私はそろそろ行く。
 アポロ、アテナ。お前たちの顔が見れた。面白い事も起きた。概ね、満足だ。
 これからも、仕事に誇りを持て。変わらず、忠誠を尽くせ」
「はっ。道中、お気をつけ下さい」
「全て、サカキ様の御心のままに」
 ふたりが、跪く。部屋を後にした。女が、すこし遅れて後ろをついて来る。支部を出て、チョウジの北へ向かった。
「あんな子供でも、勧誘するんですね」
「子供って、そこまでキミと変わらないだろう。
 キミに、弟分が出来れば面白いと思ったんだがな」
「あそこまで、子供じゃありません。弟も、別にいらないです」
 女が、むくれる。少しでも子供扱いすると、いつもこうなる。難しい年頃だ。


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