奥の部屋に着くと、もう一人見知った顔が居た。
「サカキ様、お久しぶりです」
「アテナ。息災か」
「はっ。サカキ様も、お変わりございませんか」
アテナが答える。こちらも、忠実な幹部の一人だ。口元には、笑みを浮かべている。
「うむ。ランスと、ラムダは?」
「任務中にて、外出しております」
「そうか。顔を、見ておきたかったな。次がいつになるか分からんが、その時は戻って来るように伝えておけ」
「ははっ。……サカキ様、そちらの方は」
「ああ。紹介しよう、カントーで戦闘訓練の教官をやっている」
「……初めまして」
「噂は、こちらにも届いております。
なんでも、ポケモンバトルは凄腕だと」
「いえいえ。まだまだです」
アテナが微笑む。女は、照れながら話す。すこし、緊張しているようだ。
「アポロ。報告書には全て目を通しているつもりだが、どうだ。問題ないか」
「はっ。計画全て、滞りなく進んでおります」
「いかりのみずうみの計画は、どうだ。帰りに寄るつもりだ。資料を見せてみろ」
「はっ。少々お待ちください……」
アポロが背を向ける。
その時——
大きな警報が、鳴り響いた。
「これは……?何事だ」
部屋のスピーカーから、騒音と共に団員の声が流れる。
「し、侵入者です! カメラ映像転送します!子供が、ふたり」
「子供?」
アポロが、眉をひそめる。
側のモニターに、映像が映し出される。帽子を被った少年と、赤い髪の少年が映し出された。年の頃は12か、13か。それくらいに見える。
「確かに、子供だ。キミよりも幼いな。
……どうだ、やれるか?」
「必ず」
女の顔つきが、変わった。睨みつけるよう、真っ直ぐにモニターを見つめている。
「いい返事だ。私も共に向かおう」
「サカキ様……! いえ、ここはあたくし達が」
アテナがこちらを向く。
「お前たちだけで、どうにもならないのが現状なのだろう。それ故、ここまで侵入を許した」
「……申し訳ありません」
「なに、気にするな。いたずら好きなガキを、少し懲らしめてやるだけだ」
部屋の外に出た。狭い廊下に、団員達の怒号が響いている。方角はすぐにわかった。足音がふたり分、こちらへ向かってくる。モニターで見た少年達が、廊下の角を曲がって、こちらに駆けてくる。
「またロケット団か!」
「待て。今までと、明らかに違う」
帽子の少年を、赤い髪の少年が制する。
「確かに、その辺の団員達と一緒にされては、困るな。全力で来なさい。一緒でいい。こちらも、ふたりだ」
「……分かった」
少年達が、ボールを構える。
「行くぞ。ダブルバトルの経験はあるか」
「無いです」
女は落ち着いているが、その目は闘志に燃えている。
「なら、いつも通りに戦え。私が合わせる」
「はい。行きます、ゲンガー!」
一方的な戦いだった。
ガラガラのじしんは、場の三体全てに影響を及ぼすが、宙に浮いているゲンガーには当たらない。ダブルバトルにおいて、シンプルかつ初歩的な戦法だが、少年達には十分だったようだ。
じしんに耐えられるポケモンは殆んどおらず、また、じしんを耐えたポケモンには、ゲンガーが容赦なく追撃する。
最後の1体が、倒れた。
「バクフーン!」
「くそっ……!!」
「勝負あったな。工夫は感じられるが、テクニックを活かせるだけのパワーが不足している。今後の課題としたまえ。
さあ、こっちに来てもらおう。君達には話がある。ついて来なさい」
~ 5 ~