「もう着きますよ」
「大丈夫だ。先程の、車内放送で起きた」
リニアは減速し、駅の中へ入って行く。窓からは、向かいのホームの様子が見える。
「わっ。みんな、ポケモン出してる」
「ジョウトでは、それが普通らしい。気に入った一体を、外に出して連れ歩く者が多い」
「そうなのね。わたしも、後で出そうっと」
リニアから降りると、同じ考えの者が多いのか、あちこちでポケモンをボールから出す者が居た。
「うーん。あまり毒とか出さないのは、この子かな。ゲンガー、出ておいで」
女がボールからゲンガーを出す。舌をぺろりと出して、女の伸ばした右腕にじゃれついた。
「何か、出そうよ」
「そうだな……。俺の手持ちは大体、図体がでかいからな。一番小柄な奴にしよう」
ボールから、ガラガラを出した。ジョウトには何度か来たが、こうしてポケモンを連れ歩くのは初めてだ。ガラガラも少し戸惑った様子だが、じきに慣れるだろう。
「さあ、駅を出よう。街を出たらすぐ、自然公園に行けるぞ」
「はい!」
街を北へ進み、ゲートを抜ける。駅も街も道路も、とにかく人が多かった。ヤマブキやタマムシと比べると、やや乱雑な印象を受ける街だ。
「はぐれるなよ」
特に意識せず、自然に伸ばした手を、女が握った。
「は、はい! ……あれ?」
「……いいだろう。たまにはな」
「はい!」
普段はこうして、手を繋ぐ事は無い。新鮮な感覚だった。旅に、すこし浮かれているのかもしれない。横を見ると、女が笑っている。ゲンガーも笑っている。ガラガラは表情にあまり出ないが、満足そうだった。……浮かれるのも、たまには悪くない。
自然公園に着くと、女は嬉しそうだった。静かな公園だが、今日は天気が良く、人もそこそこ居た。人の数だけ、またポケモンがいる。やはり1体をボールから出して連れている者が多い。ベンチで共にくつろぐ者、自由に走らせる者、勝負をしている少年たち。目立つところでは、パフォーマー達が芸を披露している。ジャグリングをする者、ポケモンと共に芸をする者、楽器を演奏する者と様々だ。
「マイムさんも、あの中に居たのかな」
「そのようだな。トレーナーとして旅をしながら、芸を磨いていたらしい」
「へえ……!すごいな、何の芸をするんだろう」
池の噴水を少し眺めて、先へ進んだ。今度は、狭い道だった。この辺りは、手つかずの自然が多い。女はまだ、手を離さない。細く、柔らかな指の感触が伝わってくる。戯れに、手を少し強く握る。女は、すぐに握り返してきた。顔を見ると、照れた様子を見せながら微笑んでいる。
道路を少し歩くと、エンジュに着いた。観光地として栄えている街だ。美しい街並みをしている。行き交う人は多かった。
「わあ……! 綺麗な街!」
「見どころは小道の奥の塔だ。明日、ゆっくり見て回ろう」
「はい、楽しみ!」
女が喜ぶと、ゲンガーも跳ね上がって喜びを表した。ガラガラも、嬉しそうだった。外を歩く事にだいぶ慣れたようで、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
「道路を歩いて、腹が減っただろう。蕎麦で良いか?名店が近くにある」
「行きたい! お腹、すいちゃった」
~ 3 ~