「あらまあ、デートですか!良いですねえ!」
マイムは、想像の倍ほど上機嫌だった。
「……もう一度言う。視察だ」
「ふたりで行かれるならば、それはデートでしょう!ねっ、教官殿」
「えへへ……どうなのかな……」
「ジョウト。私も若い頃は、自然公園でパフォーマンスの練習をしたものです。良い所ですよ。自然と、歴史的建造物が多い。
早速、リニアを手配しなくては。旅行のしおりを作りましょうか」
「いい。私がやる。短い旅だが、お前には留守をよろしく頼みたい」
「普段ならお任せ下さるのに……やはり、デートなのですね……。
ひとの恋路を邪魔するものは、馬に蹴られるとも言います。おお、恐ろしい。
留守はお任せ下さい。どうぞ、ごゆっくり……」
そう言うと、ギャロップに変身して部屋から駆けて出て行った。
「騒がしい奴だ」
「マイムさん、ジョウトに居た事あるんだね。自然公園って、ここかな」
買ってきたガイドブックをめくりながら、女は嬉しそうだ。
「コガネシティの、すぐ近くだ。通り道になる。宿はエンジュで良いか?」
「はい!」
「支部はチョウジだ。ヤマブキからリニアでコガネまで行って、自然公園を通り、エンジュを一度通過して、チョウジに行く。チョウジには、大きな湖がある。ついでに、見に行ってもいい」
「行きたいです!」
「では行こう。日付は、来月の頭だ。朝が少し早いぞ」
「大丈夫です!楽しみ……!」
女は、とても無邪気にはしゃいでいる。
女の笑顔は、眩しい。日の光のように、感じる。悪くない。いつまでも、見ていたくなるような輝きだ。
……それからは、少し忙しかった。
予定を前倒しにして、出かけられるようになんとか空きを作る。その繰り返しだった。化石からポケモンを復元させる研究が、順調だと聞いた。成果物と、論文に目を通さねばならない。ジムの方も、最近は挑戦者が増えていた。自分の所まで辿り着けぬ者が殆んどだったが、挑戦権を得て挑んでくる者も居る。どちらも、手が抜けない。
やっと目処がついた時には、出発はもう明日に迫っていた。
「むう、このアイス、すごく固い……」
「リニア名物だな。そのうち溶ける」
女は、車内販売のアイスに苦戦していた。聞けば、列車の旅は初めてらしい。駅に居る時は興味深そうに周りを見回し、窓側の席に座ってからは、目を輝かせながら列車の中と、外の景色を見ていた。
「すごく速いのね、リニアって。コガネまで、すぐ着くなんて」
「ああ。昔は倍近くかかったものだが、技術の進歩だな。
……悪いが、少し眠っても良いか。昨日までの疲れがあまり、抜けていなくてな」
「分かりました。確かに、最近は忙しそうでした……。着いたら、起こします」
「うむ」
着いてからは、徒歩の移動だ。わずかでも、眠っておきたかった。リニアの感動に付き合えない事に申し訳なさを感じつつ、寝た。
~ 2 ~