「行きます。ゲンガー!」
女がボールを投げる。一番手はいつも、このゲンガーだ。他にも多彩な技を持つが、特にさいみんじゅつが巧みで、命中率がかなり高く感じる。このゲンガーで序盤の主導権を握ってくるのが、いつものやり方だ。だが今日は、先手を譲るつもりはない。
「出番だ、ヤミカラス」
「おーい、始まるぞ!」
「窓越しじゃ見えねえ、外出るぞ外!」
「初手はやっぱりゲンガーか。強いんだよな……」
「サカキ様の出したポケモン、何だ?」
「ずいぶんちっこいが、大丈夫か」
「あー!」
ひとりの団員が、叫んだ。
「俺の、俺の育てたヤミカラス!
サカキ様が、俺の、俺のヤミカラスを使って下さった! ヤミカラス! 頑張れ! 頑張れ!!!」
「……なに、その、ポケモン?
カントーじゃ、見た事ないや」
「ジョウトのポケモンだ。西の方では、そう珍しくないらしい」
「ふうん」
女は、少し面食らったようだった。
ヤミカラス。実戦投入は初めてだった。自分のポケモンではない。ある日、一人の団員が連れているのを見て、借り受けた。信用している。きっと、いい活躍をする。育てたのが、自分の部下だからだ。
「試合開始」
判定マシンのブザーが響く。
「行くよ! さいみんじゅつ!」
ゲンガーが、ニイと笑って技を放つ。だが、ヤミカラスは涼しい顔だ。全く効いていない。夜行性のポケモンだと聞いている。また、眠りに、耐性があるらしい。
「ヤミカラス、だましうち」
カァと鳴くと、羽を広げ、足で地面を蹴る。ゲンガーの大きな顔に、強い一撃を放った。
「ゲンガー! ナイトヘッド」
「畳みかけろ、ヤミカラス! もう一度、だましうちだ」
ゲンガーの攻撃を耐え、ヤミカラスはゲンガーの少し上を飛びながら、素早く、執拗な攻撃を繰り返す。
……ゲンガーは、表情の豊かなポケモンだ。故に、顔に出る。明らかに、疲弊の色が見える。戸惑いも、焦りも。
「ヤミカラス、決めろ!」
カァと鳴く。羽を、大きく広げる。両足で蹴りつけ、ゲンガーを跳ね飛ばした。
「ゲンガー 戦闘不能」
判定マシンが告げる。団員達の歓声が聞こえる。あの中に、育ての親が居るはずだ。ヤミカラスは誇らしげにしている。
「……やるね。こっちも、普段は使わない子で、行く」
~ 3 ~