勝利の鍵は

鐘屋横丁

     

 女の表情が、少しだけ柔らかなものになる。なにか団員に指導しているが、よく聞こえない。もう少し近寄った。
「……だからね、必ず狙われる。
 ユンゲラーを使うときは、打撃技が飛んでくる事を、常に警戒して」
「はい!」
「攻撃は、悪くなかったです。もっとレベルが上がれば、それだけもっと良いかな。頑張って」
「はい! ありがとうございます!」
 団員は一礼して、その場を去る。
 ……辺りが少し、騒がしくなってきた。団員達に気付かれた。サカキ様だ、と言う声が聞こえる。女も、こちらに気づいた。ぱっと表情が明るくなる。あの真っ直ぐな目にも、笑みの色が浮かぶ。よく、笑うようになった。その方がいい。
「お疲れ様です、ボス。今ちょうど、最後の1人が終わったところで」
「ご苦労。少し離れて、見ていたよ。」
「はい、ありがとうございます。
 ……ここに来たって事は、そういう事ですよね」
 ニドクインを、ボールに戻す。そして、ボールを構える。真っ直ぐに、こちらを見てくる。
「そうだ。今日こそ、土をつけてやろう」
「分かりました。今日も、勝ちます」
 互いに、にっと笑う。
 ……我々の間に、多くの言葉は、要らなかった。夜にそうであるように、バトルをする時もまた、そうだ。心のどこか深いところで、交じり合う。
 しかし周りは、騒がしい。多くの言葉が、飛び交う。野次馬も、先ほどより増えている。それでいい。バトルの観客は多ければ多いほど、良い。


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