盲目の忠犬

鐘屋横丁

     

「ゴルバット 戦闘不能。試合終了」
「ダメかぁ……」
 団員がうなだれる。
「内容は、悪くなかったよ。あなたのゴルバット、進化したてよね?」
「は、はい。分かるんスね」
「身体の変化にまだ対応できてないみたい。ゴルバットは、進化で急に身体が大きくなるからね。飛ぶのがやっとって感じだったし、あれじゃ避けられる攻撃も避けられないよ。
 しばらくボールから出す時間を増やして、身体慣らさせてあげて」
「ウス! ありがとうございます!」
 団員は一礼して、去って行った。
 ……これで、今日の訓練はおしまい。わたしたちのバトルに感化されたのか、いつもより熱心な人が多くて、少し延びてしまった。
「今朝は久々にバトルが出来て、とても嬉しかったな」
 ……あの人と初めて戦った時、強く感じたのは大きな欲望だった。勝利も、栄誉も、何もかもを。ポケモンを使って、世界征服をする。そんな大それた野望を抱く組織のボスなのだから、当然かもしれない。そしてそれが、自分に欠けているもののように、感じた。
 ——欲しい。
 手に入れたい。つよく、心を惹かれた。ひとを、こんなに欲したのは、初めてだった。本当なら、一目惚れだとか、好きだとか、言うのかも知れない。でも、先にあった感情は、欲望だった。

 アジトの、一番奥の部屋。そこが、ふたりの待ち合わせ場所。本当に限られた人しか入れないみたい。
 少し遅れちゃったけど、大丈夫かな。キーを認証して、扉を開ける。
「……以上で、本日の報告を終了致します」
「うむ。引き続き実験には力を入れて行こう。予算の心配は無用だと、研究室に伝えてくれ」
「畏まりました……おや。」
「マイムさん、ボス。お疲れ様です」
 マイムさんがにっこりと笑った。緑の髪に緑の目。緑のリップ。お化粧してるけど、この人、男なのかな、女なのかな……。
「はい、お疲れ様です。
 ではサカキ様、私はこれで失礼します。後は、どうぞ、ごゆっくりと……!」
「一言多いんだお前は。下がれ」
「はっはっは、藪蛇でしたかな。それでは。今日のバトル、どちらもお見事でした!」
 アーボに変身して、あっという間に部屋から這っていった。いつ見ても、すごい能力の人だ。でも、こういう人もポケモンもロケット団には沢山いるらしい。教えてもらった中で気になったのは、人語を話すニャースかな。
「今日は少し、遅かったな。先程は、ありがとう。突然バトルを始めて、すまなかったな」
「いえ、嬉しかったし、大丈夫です。延びたのは、あの後みんな熱心になって。相談に来る人とか、多くなっちゃって」
「そうか。悪い事ではないな。視察も兼ねて、今後もたまには顔を出そうかな」
「はい、是非! わたしは、いつでも大丈夫です」
「いつもいつも、負けるところを団員たちに見せるわけにはいかないからな。次は勝つ」
 そう言って、心底悔しそうな顔をする。それがなんだか、可愛らしく思える。


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