「そうか。そうだな。そいつは、頼れるボディガードだ」
……少し、浅慮だったか。彼女をよく思わぬ者は、沢山居るだろう。その身に危険が無い……とは、言い切れない。
「少し、いいか」
「なに」
「……」
後ろから、抱きしめた。顔は見えないが、鼓動を確かに感じる。華奢な身体は、自分の腕の中にすっぽりと収まった。
「……昨日は済まなかった。あまり、いい場所では無かったし、乱暴にしてしまった。」
「ううん。とても、素敵な夜だった」
「今日の事も。すぐに決めてしまったが、嫌な事があったら言ってくれ。
キミの強さなら平気だと思うが、もし危険な目に遭ったらと、ふと不安に」
女の小さな手が、そっと自分の手に触れてくる。
「ふふ。大丈夫です。役に立てるの、すごく楽しみ」
「そうか……。今夜は、どうする?」
「一緒に、いたい」
「わかった。今夜は、いい場所を用意しよう。これからキミを訓練場まで送る。
俺はジムに顔を出して、その後は、済ませたい雑用が溜まっていてな。夜にまた、この部屋で落ち合おう」
腕を放す。振り返った彼女は笑顔を浮かべていた。昨日までと変わらぬ、あの真っ直ぐな目が、今は心から笑っているように、思えた。
「う、わー……」
「どうだ? お気に召したかな」
タマムシシティにある、とある高級ホテルのスウィートルーム。扉を開けてすぐ、女の目はキラキラと輝いて、あちらこちらと部屋の中を見て回った。
「すごい。こんな所、初めて……さすがボスだ」
「フフフ。さすがに毎回は困るが、このくらいの部屋なら、幾らでも用意してやろう」
「わー。ベッドふかふか……お姫様のベッドだ」
「昨日は狭い思いをさせたからな……結局俺はソファで寝たよ」
「あっ、そうだったんだ。ごめんなさい」
「気にするな。さて、ルームサービスで何か食べるかね?
とりあえず、俺はコニャックを飲むが、キミも何かジュースを頼みたまえ」
「ソフトドリンクもいっぱいある!何にしようかな……」
女の目は輝いて、とても無邪気に、年齢の通りそのまま自然に、笑う。笑っている。今日は良い日だ。色々あったが、この笑顔を沢山見る事ができた。
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