散る花、咲く花

鐘屋横丁

     

 18時30分。
 この時期の風は少し冷たい。寒いのは別段苦手ではなかった。考えをまとめるのに丁度良い。カードキーを通し、裏口へと入る。ジムにはまだ明かりがあり、トレーナー達がいるようだった。熱心な事だ。より上を目指す。……その心は、自分にもまだあるか。
「少し、片付けるか」
 あまり物はないが、ほとんど使われてない部屋だ。軽く片付けを済ませ、仮眠用のベッドに腰掛けた。
「……」
 トキワジムでトレーナー達と話してる間も、少女はバトル部屋に居たままだった。あのまま、ひとり考え事でもしていたのだろうか。
 ……来るか?
 怖気付いて、来ないかもしれない。その時は、それまでだ。少女にとっても、その方がいいだろう。だが、来ればどうする。抱くのか。あの少女を。犯すのか。自分が敗北した相手を。穢すのか。あの真っ直ぐな目を。女は何人も抱いて来たが、こんなに躊躇われる事は無かった。若い娘を相手にする、背徳感が故だろうか。
「……酒でも飲むか」

 少し経った頃、扉が——開いた。
「……こんばんは」
「来たか」
「来ました」
 少女は、陽気に、にこりと笑っている。
「まあ、上がってくれ。そこにソファがあるだろう。
 ジュースの類がなくてな……。コーヒーで、良いか」
「うん。お砂糖があると、嬉しいです」
「ある。……外は、寒かったか?」
「少し」
「そうか」
 少女は、昼間の様子と特に変わったところはなかった。バトルをしている時は、表情の変化はある。しかし、普段はあまり無い。が、無愛想という訳ではない。年齢の割には落ち着いている方なのかもしれない。
「……ほら。私は勝手に一杯やっているが、あまり気にしないで欲しい」
「ありがとう。いただきます」
「……」
 沈黙。そうだ、沈黙は良くない。彼女には聞きたい事があるのだった。


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