自分の、歩く音がじりりと鈍く響く。土が盛られたバトルフィールドを歩くと、靴には泥が付く。
「……ジムバッジと賞金だ。あとは……これだ。自分でよく考えろ」
「……カードキー?」
「ここの裏口だ。私しか使わない部屋がある。気が変わらなければ、来たまえ」
「私は、気持ち、変わらないけど」
「ならば、私の気持ちを変えられるよう、頑張りたまえ。私の気が変わらなければ、キミをさっさと追い出す。
19時でいいか?いいだろう。追い出されたキミが帰る時間は、早い方がいいだろうからね」
ポカンとする少女を残し、バトル場の部屋を出た。我ながら訳の分からない事を口走ったと思うし、訳の分からない行動をしてしまったと思う。今、動揺している。認めよう。
とにかく、それ程までに、あの沈黙が耐えられなかった。
あの、目が——
扉から出ると、待ち構えていたジムトレーナーたちが一斉にこちらを見た。ああ、そうだ。ここはトキワジムだ。すっかり消えていた敗北感を、一瞬にして思い出した。
「負けたよ。強いチャレンジャーだった」
「リーダー!」
「皆でモニターで見てましたよ!」
「サイドンの踏ん張り、凄かったッス!」
「ニドキングのあばれるも痺れました!」
「感動しました!すごい試合でした!」
ジムトレーナーたちが駆け寄って来る。泣いている者もあった。地面を見て、小さく息を吐いた。敗北感は心にあるが、心地の良いものに変わっていった。
「ありがとう。私もまだまだだと言う事だ。
リーダーとして精進を……いや。
皆、一緒に、頑張ろう」
「リーダー!!!」
「リーダー! ありがとうございます!」
「そうだリーダー! モニター新しいのにしましょうよ! 古くて画質ガビガビなんですよ!」
「トレーニングマシンも新しくして下さい!」
「僕のダグトリオ見て下さい! あの後進化したんですよ!」
「機器類は新しいものを買おう。長い間ジムを留守にして、申し訳なかった。
君のダグトリオ、よく覚えているよ。随分鍛えられているな。明日からまた練習試合を組もう」
「リーダー!!」
「俺たち頑張ります!
あのチャレンジャーは強かったけど、もう誰もリーダーまで通さないようにします!」
ジムトレーナーたちが様々な思いを口にする。そうか。此処にも、自分は身を置く事が出来る。悪の組織を解体して、小さな町のジムリーダーとして余生を過ごす……そう言う選択肢も、あるのだ。それを選ぶかどうかは、また別だが。
「リーダー!! 今晩飲みに行きましょうよ! トキワジム復活後初の試合、お疲れ様でした会で……」
「すまない。今日は先約があるんだ。また今度、皆で行こう。
少し、疲れてしまった。今日はもう帰るよ」
~ 3 ~