敗北の味

鐘屋横丁

     

 さあ。何を出す。と言っても分かっている。少女はいつも同じ手持ちで我々に挑んできたからだ。
 少女の5体目、大将として放たれたのは——
「行って!モルフォン!」
 やはり。
 相性としては悪くない。むしろ先のフシギバナの方が悪かった。
 勝てるのか。遂に。わからない。連れている姿はいつも見ていたが、バトルにおいて使われている姿は見た事がない。愛玩用とも思ったが、今の少女の目に落胆はない。焦りはしているが、まだ勝利の色が褪せていない。勝つ気でいる。
 ああ、自分は、少女の切り札を、やっと引きずり出せたのだと思った。
 モルフォン。厄介な相手だ。状態異常技を使いこなす傍ら、エスパーとしての一面もある。状態異常、特殊攻撃。どちらで来るか。
 あちらも出方を伺っているようで、場に出したものの特に指示はない。ならば、今度はこちらから仕掛けるか。
「サイドン、ロックブラスト」
 岩石の霰をモルフォンへ撃ち込む!
「避けて! ねんりき!」
 モルフォンは避けようとはしているが、ロックブラストの攻撃範囲は広い。サイドンも使い慣れている技だ。確実に狙って当てている。
 それにしても、対抗手段がねんりき?
 ねんりきでバトル場にある何か——例えば岩など——を操っているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。ロクな技を覚えていないのだろうか。
 しばらくサイドンの一方的な攻撃が続き、空を飛ぶモルフォンの動きがふらついてきた。
「最後の一体は愛玩用か」
「………」
 少女は答えない。が、まだ目には光がある。こちらに対する返答のつもりか、口に微笑みが浮かんだ。
 何故だ。何故この状況で笑っていられる? おかしい。何か、気づいてない何かが……心臓が早鐘を打つ。冷たい汗が出る。
 サイドンは……っ!?


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