敗北の味

鐘屋横丁

     

「サイドン!技を止めろ!」
 サイドンの様子がおかしい。明らかに疲弊している。先程のじわれの疲れか? ロックブラストを打ちすぎたか? 違う。相手だ。相手による攻撃だ。
 ねんりき? 違う。せいぜい物を浮かせて動かす程度の技だ。そんな様子はなかった。モルフォン。そうだ、愛玩用ではない。そんな事は分かっていた。だからロックブラストを何発受けてもふらつく程度で済んでいるのだ。それどころか、今は無傷に近い。傷が癒えている。これは……
 少女はふふっ、と笑う。その目には勝利の色があった。
「ねんりきじゃなくてメガドレインよ。今日この日のために、指示出しを普段から訓練していたの」
「何ぃっ……!」
 メガドレイン。
 相手の体力を吸収する技! それをずっと食らい続けていたのであれば……サイドンの体力はもう……
「貴方のサイドンは、もう動けない」
「くっ……」
 モルフォンを光が包む。
 柔らかで、あたたかな太陽光——先程と同じ光——
「ソーラービーム!」

「サイドン、戦闘不能。勝者、チャレンジャー
 ジムリーダーはすみやかにジムバッジを授与して下さい」
 機械音声が勝敗を告げる。
「負けた……のか」
 負けた。全てを、背負った戦いで負けた。
 だが、満足していた。サイドンを出す前に感じていた冷たさは、もう何処かへ消えていた。
 少女がこちらに向かって歩いてくる。やはり、真っ直ぐな目をして。
「……キミが求める事は分かっている。ジムバッジを渡すが、それだけではないだろう。」
「……」
「ロケット団を……我が軍を、解体すると約束しよう。」
「……」
 少女は少し考えてから、口を開いた。
「それは、別にいいんじゃないかな」
「……は」
 おかしな返答に、思わずぽかんとしてしまった。
「むしろ、そのままで居て欲しいというか」
 ますますわからない。ジムバッジの事にしか興味がない……訳ではない……はずだ。
「では何故、今まで我々の計画を阻むような真似を」
「それは、もののついで、というか……うん……
 そうだ。ロケット団、解体しなくてもいいので、ひとつお願いを聞いてもらってもいいですか?」
 物のついで。そんな事で綿密な計画を全て阻まれていたのはとても腹が立つものだが、今は少女の望みが知りたかった。その真っ直ぐな目の先に、どんな望みがあるのか、純粋に気になった。
「私に出来る事であれば、構わないが」


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