「待て! 走るな」
女を捕まえた。腕をぐいと掴まえて、ポカンとした女の顔を見る。
「……危ない」
「は、はい」
「二人ともー! 先に行かないで下さい! 迷子になりますよ!」
ランスと、団員達がばたばたと駆け寄ってくる。
「ヒメグマはこの先ですね。そろそろ、戦闘の準備をして下さい」
「……ボス」
「俺の手持ちは、どいつも図体がでかい。この狭い場所で、あまり出したくはない。お前のマタドガスや、モルフォンが頼みだ」
「分かりました」
女が、こくりと頷く。
「居たぞー!」
団員の一人が指差す。その先に居たのは……希少種!
「わあっ……おっきい……」
並のリングマよりかなり、大きかった。リングマは二足歩行だが、希少種は四つ足でこちらへ向かって走ってきた。手足の爪は、鋭そうだ。額に丸い模様なのか、傷なのかわからない跡がある。
「希少種、捕まえてみせます! マタドガス!」
女はマタドガスを出した。希少種は大きく吠えた。不気味な声だ。だが、女が負ける訳がない。心配しているのはそこではない。いつ、「それ」が起きても備えられるように、ボールを握りしめた。
「ヘドロこうげき!」
マタドガスが攻撃をする。希少種のレベルは高そうだ。攻撃を受けてはいるが、余裕のある顔をしている。毒はあまり、効かないのか。
「ゥガウッ!」
きりさく攻撃がマタドガスを襲う。やや、痛そうにしている。
「マタドガス、ねっぷう!」
「ドガ!」
近づいていた希少種に正面からねっぷうを浴びせる。これは——効いている。一歩後退して、フルフルと頭を振った。だが、すぐにまた向かってくる。助走をつけ、地面を蹴り上げ、猛烈なタックルをかまして来た。マタドガスを掴み、地面に擦り付けるような動きを見せる。強烈な一撃だった。マタドガスは、そのまま土に塗れて気絶した。
「マタドガス!」
「やはり、コイツは地面タイプだ。毒は効果が薄い。何やらマタドガスをダウンさせる地面技を使ってくる」
「分かりました。モルフォン! ギガドレイン!」
女はマタドガスをボールに戻し、モルフォンを出す。読みが正しければ、効くはずだ。……効いた! 先程までとは、明らかにダメージの通りが違う。
「モルフォン、そのまま続けて! 限界まで搾り取って!」
モルフォンは攻撃の手を緩めない。続く強烈な一撃に、希少種はフラフラとし出した。
「そこでストップ! ねむりごな!」
女は指示を変えた。モルフォンは素早く反応して、ねむりごなを出す。弱っているところに浴びせられれば、ひとたまりもないだろう。希少種はその場で眠ってしまった。
「行きます!」
女はハイパーボールを投げた。希少種はボールに収まる。二度、三度とボールは揺れたが、しっかりと捕獲完了の印が出た。見事だ。
「やった。やりました、ボス!」
「ああ。良くやった」
「捕獲、お見事です。噂に違わぬ実力だ。素晴らしい」
「えへへ。二人とも、ありがとうございます」
女はボールを拾って、にっこりと微笑む。
「さて。しかし、大変なのはここからかもしれません。ヌシを奪われたヒメグマ、リングマ達が怒ってやってくるでしょう。お二人は来た道を戻って下さい。私たちが食い止めながら追いつきます」
「ええっ……!」
「分かった、急ごう。頼んだぞ、ランス」
「お任せ下さい。ゴルバット!」
ランスがボールからゴルバットを出す。目的は済んだ。さっさとこの山から降りてしまいたい。山から降りれば、危機を脱したと思っていいだろう。
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