君を愛するということ

鐘屋横丁

     

「なるほど。遊びか。ならば私にも出来るか」
「興味があるのか?」
「ヒトがヒトと交わるように、私もお前と交わりたいのだ」
 思った事を正直に口にしたつもりだったが、サカキは少し困った顔をして、また煙草に火をつけた。
「……相手は私か。熱烈な愛の告白だな」
「愛?」
「ヒトが抱く、巨大な執着心の名前だ。時に美しく、時に醜い。ヒトがヒトに向けることもあれば、他の物に向けることもある」
「ポケモンにも、向くのか?」
「そうだな。向ける奴もいる」
 胸が、暖かくなった気がした。ヒトの感情を、また一つ知る事が出来て嬉しい。手をぎゅっと、握っては開いた。
「愛。この気持ちが、愛なのか。ヒトは交わる時、愛が心にあるのか?」
「難しい質問だな。必ずそうとは限らない、とは言っておこう」
 サカキはそう言って、小さく笑いながら煙草の煙を吐いた。
「サカキ。お前は、昨日の女を愛していなかったのか?」
「よく分かってるじゃないか。ただの暇つぶしだ。もう、名前も忘れた」
「あの女は、お前に好意を持っていた」
 昨日は女の思考も覗いていた。サカキへの好意で溢れているように感じた。だがサカキは、それを聞いて特に驚いた様子ではなかった。フッ、と鼻で笑って、煙を吐いた。そして、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「そうか。それは、悪い事をしたな。
ミュウツー。ヒトは、愛される事を望む者と、そうでない者がいる。私は後者だ。たいていの女のそれは、どうにも重たくてね」
「……」
 サカキは、愛を望まないと言った。ならば自分のこの思いも、不要なものなのだろう。胸がちくりとした。
「だが、他ならぬお前の言葉だ。無下にするつもりはない。お前はかなりヒトに近いが、身体はポケモンだ。何処まで出来るか分からないが、付き合おう」
 サカキはまた、煙草の火を灰皿に押しつけて消した。


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