「ウイスキーで良いですか? 氷とか、今出しますので」
「ああ、ありがとう。適当に作るよ」
テレビをつけると、昔の映画をやっていました。それを見ながらふたりでまたお酒を飲みます。私はかなり強い方ですが、彼もそれは同じようです。顔色は変わらないし、特別酔っ払った様子もありません。
ニドリーナは、いつの間にか寝てしまいました。
そして、映画がハッピーエンドを迎えた頃——私たちは、どちらからともなく、キスをしました。
愛おしむような、優しいキス。このままずっと、いつまでも身を任せていたいような衝動に駆られます。
「レディ。ベッドは、どっちだね」
「そこの、扉……あっ」
ひょいと、抱えられてしまいました。お姫様抱っこ。ちょっとだけ、恥ずかしいですね。
ベッドに着けば、あとは大人の時間です。彼に抱きしめられると、煙草と香水の混ざった香りがします。キスとハグを繰り返して、お互い裸になって、電気を消しました。
最中に、彼はぽつり、と漏らしました。
「違う」
「……?」
「なんでもない。気にするな」
おかしな事はそれだけでした。彼はとても上手で、優しくて、私はとても心地よい時間を過ごさせて貰いました。
すべてが、終わりました。シャワーを浴びて、再びベッドに入ります。
「ありがとう。とても良かった」
「いいえ。私の方こそ」
そっと、抱きしめてくれました。彼は私の赤い髪を、愛おしそうに撫でます。
「美しい髪だ」
「ありがとうございます」
顔を上げました。彼はなんだか、複雑な表情を浮かべていました。すこし悲しいような、懐かしむような。
きっとこの髪を通して、誰か他の人を見ているのです。そう感じました。
「赤い髪の方が、お知り合いにいらっしゃるのですか」
「……ああ。そうだ」
少し驚いた様子で、彼は答えます。
「立ち入った事かもしれませんが、その人は」
「わからない。生きているのかも」
「探しているんですか」
彼は遠い目をして、答えます。
「そうだな。やれるだけの事はやった。それでも見つからないのだから、遠い大地か、あるいはもう、この世にはいないのかもしれない。それでも、諦めきれない」
「そんな、見つかる見込みのない誰かを? これからも、ずっと」
「ずっとだ」
「たまに、私みたいな赤い髪の人を抱きながら」
彼はまた少し、悲しそうな顔をしました。
「そうだな」
「うーん」
「何か不満か」
「夢のある話なら応援しますけど、何だか先行きの暗い話だから」
「そうか。そうだな」
「もう、やめにしませんか。私で最後に」
彼の顔つきが、変わりました。悪い顔になって、ニヤリと笑うのです。
「ほう、俺を縛りつけるつもりか。大した独占欲だ」
「……何とでも言って下さい。あなたの悲しみに終わりが来るよう、祈っています」
「聖女のような事を言うんだな」
「まあ。大酒飲みで、色欲にまみれた聖女なんていませんよ」
「そうか。それも、そうだな」
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