白々明けて

鐘屋横丁

     

「……」
「……ムサシ」
 コジロウは緊張した様子だ。もしかして、こういう所にあまり来た事がないのかしら?
「何?」
「良ければ、一緒にお風呂に入らないか?」
「ふふっ、何より改まって。いつも一緒に入ってるじゃない」
「そうだけどさ。ムサシと一緒に入るの俺、好きなんだ」
「いいわよ。一緒に入りましょう」
 お風呂にお湯を溜めて、服を脱いだ。コジロウはぼーっとこっちを見ている。
「何よ。別に水着姿とか、いくらでも見てるでしょ」
「それもそうなんだけど……また別っていうか。うん。ムサシ、綺麗な身体してるなぁって」
「……」
 ふと、サカキ様の言葉が頭をよぎる。綺麗な体だと言われた。同じ言葉でも、コジロウに言われた方がなんだか嬉しい。胸の奥が暖かくなる。
「コジロウも、早く脱ぎなさいよ。あたし一人じゃ恥ずかしいでしょーが」
「ああ、そうだよな。うん。ごめん」
 コジロウはもじもじと、少し恥ずかしそうにしながら服を脱ぐ。
「さ。身体洗いましょ」
「う、うん……」
 不思議と、緊張しない。今まで水着になったり混浴をしていた事が多かったからだと思う。でも、コジロウはそうじゃないみたいだ。ガチガチに緊張しているのがわかる。
 身体を洗い終わって、ふたりで湯船に入った。あの部屋のお風呂よりずっと狭いけど、あたしはこれでいい。
「なあ、ムサシ」
「何?」
「……何回くらいしたんだ、サカキ様と」
「数えてないけど……6、7回かしら」
「結構したな……痛くされたり、しなかったか」
「全然。いつもは優しいのよ。……酔っ払った時だけ、だいぶ痛かったけど」
「そっか。……俺、全然こういう経験ないから、痛かったらごめん」
「きっと大丈夫よ。コジロウなら」
 確かな安心感が、胸の中にあった。コジロウなら大丈夫。あたしの心の傷ついたところを、優しく包んでくれるだろう。真っ直ぐにあたしの事を見つめてくれるきれいな目。ああ早く、癒して欲しい。
 風呂を出て、身体を拭いた。そのまま、ベッドに入る。
「ムサシ……本当に、いいのか?」
 コジロウが、肩を抱きながら聞いてくる。
「今聞かないでよ……さっきちゃんと言わなかったけど、あたしも好きよ。コジロウの事が、好き」
「ありがとう、ムサシ」
 コジロウが、ぱあっと明るい笑顔になる。唇が近づいてきて、重なった。
「ん、ムサシ……」
 コジロウの舌が、ゆっくり入ってくる。あたしの舌を求めて、少しずつ動かしてる。そのぎこちなさが愛おしくて、自分から絡めとった。まるでお互いの気持ちを確かめ合うような、優しく絡め合うキスだった。
 唇が、離れた。
「ムサシ、ごめん。俺、あんまり上手くなくて……」
「いちいち、謝らなくていいわよ。こういうのは、気持ちでしょ」
「気持ち……そっか。そうだな。気持ちなら、俺は誰にも負けないよ」


~ 4/5 ~