白々明けて

鐘屋横丁

     

 
「ムサシ」
 ニャースとソーナンスが寝てしまったあと、コジロウが真面目な顔で話しかけてきた。
「な、何よ」
「ちょっと、外に出ないか。真面目な話があるんだ」
「……いいわよ」
 胸がどきりとする。なんの話だろう。どうでもいい事だと願うしかない。
 外に出た。辺りがすっかり寝静まった夜。周りに人影はない。夜行性のポケモンの鳴き声が遠くから聞こえる。
「……最近、本部に行くって出かけていくだろ」
「ええ」
 胸がドクンとする。やっぱり、この話だ。
「……この間、俺も本部に行く用事があったんだ。そこで、車に乗るムサシを見ちゃってさ」
「!」
「……車が戻ってくるまで待って、運転手の団員に聞いたよ。誰と、どこまで行ってきたんだって」
「コジロウ……」
「ムサシ……いつの間に、サカキ様とそんな関係になってたんだな。別にもう、隠さなくても……いいよ、あはは」
 コジロウは、何かを諦めたように笑う。違う、そうじゃないの……!
「違うの……! ちょっと事情があって、ていうか」
「……?」
「解散させられるところだったのよ、あたし達。ホラ、いつも失敗ばっかりじゃない」
「まあ、そうだな……」
「それで、……夜ちょっと付き合えば、解散しなくていいって」
「……それで、通ってたのか」
「うん……」
 暗くて、コジロウの表情がよく見えない。怒ってるのかしら。呆れてるのかしら。汚らしいと、軽蔑しているのかしら。
「……どうして」
「?」
「どうして、相談してくれなかったんだ。俺って、そんなに頼りないかな。
 ふたりで考えれば、みんなで考えれば、何か他の道があったかもしれないのに、どうしてひとりで抱え込んじゃうんだよ……」
 コジロウが、あたしの両肩を掴む。
「なあ、ムサシ。俺、辛いよ。ムサシが無理して笑うのが辛い。今日、ずっと無理して笑ってただろう。分かるよ、いつも見てる、ムサシのパートナーなんだから」
「コジロウ……」
「なあ、ムサシ」
「うん」
「俺じゃ力になれないか? 忘れさせてやる事も出来ないか? 俺はずっと、ムサシの事、好きだったんだけど」
 ぎゅう、と抱きしめられた。胸がドキドキする。音が聞こえる。ひとり分じゃない。コジロウの胸も、ドキドキしてる。
「コジロウ……」
「一緒に、ついて来てくれるか?」
「うん」
 手を繋いで、夜の街を歩いた。街の灯りの、何もかもが綺麗に見える。あの部屋で眺めた夜景なんかよりずっと。好きな人と手を繋いで歩く。しかも、彼は私を好きだと言ってくれる。こんな幸福があってもいいのだろうか。
 着いたのは、安いラブホテルだ。入り口のネオンは消えかけてたし、カウンターもボロボロだ。部屋も狭い。ベッドと小さなテーブルと、これまた小さな冷蔵庫があるだけ。


~ 3/5 ~