白々明けて

鐘屋横丁

     

 
 シャワーを浴びて、バスローブを着た。メイクも落としたし、あとは寝るだけ。この部屋、アメニティが充実してるのだけは嬉しいわね。
 ベッドに戻って、電気を消した。高い天井を眺めながら、今日を振り返る。
 今日も疲れたな。まさか最後が酔っぱらいの介抱になると思わなかったけど。
 ……コジロウ、今頃何してるのかしら。いつも、どんな顔して帰ったらいいかわかんない。毎回泊まってくるとか適当な事言って誤魔化してるけど、通用してるのかわからない。何も言ってこないから、いいのかしら。
 色々考えていると、突然サカキ様が、むくりと起き上がった。
「……、……」
「サカキ様? わっ!」
 暗くてよく分からないけど、上に跨られてる。
「……、……」
 小さな声で、あたしじゃない別の人の名前を呼んでる。誰だろう。聞いたことのない名前だった。
「そこに、居るのか。もう、何処にも行くな」
「は……はい」
 思わず返事をしてしまった。そこから先は——あまり思い出したくない。

 いつもより乱暴にされて、無理矢理口の中を犯されて、あまり濡れてないソコにねじ込まれた。後ろを向かされて、何度も深くまで突かれた。
 いつもの甘いキスも、蕩かされてしまうような愛撫も、優しい言葉も無かった。まるでモノみたいに扱われた。
 サカキ様はまるで、人が変わったようだった。酔っていただけなのかしら。……後になって思えば、生だったな。日にちはまだ先だから、大丈夫だけど。
 あたしはサカキ様に抱かれる時はいつもコジロウの名前を呼んでいた。コジロウに抱かれている、と思うようにしてた。でも、サカキ様もそれは同じだったのかもしれない。結局どんなにあたしを褒めても、本当に求めているのはきっと別の人なのだろう。
 なーんだ、あたしじゃなくてもいいんだ。という気楽な思いと、誰でも良かったんだ。という落胆が心の中で混ぜこぜになる。少しだけ、泣いた。
 
 帰りはいつも、コジロウたちの待つアジトの近くまで車で送って貰う。失礼します、と頭を下げて車を降りる。
 あとは、いつもの明るいあたしに戻るだけ。アジトに元気よく帰って、なんでもないように振る舞って、コジロウと、ニャースと、ソーナンスと、ぐだぐだ駄弁ったり、次の作戦を考えたりする。
 でも、今日は少しだけおかしい。コジロウにどこか元気がない。無理して明るく振る舞っているような、そんな気がする。人の事は全く言えないけどね。
 おやつも食べて、ジュースを飲んで、ケラケラ笑っていたらもう夜だ。やっぱり、アジトで過ごす時間はとても楽しい。メンバーチェンジなんかあり得ない。昨日みたいに怖い思いをしたって、私はあの夜を続けるべきなんだ。 


~ 2/5 ~