車がいつものホテルの前に着いた。ああ、今日も着いてしまったなあと思いながら車を降りる。
「では、また朝に来い」
「はっ」
あたし達を乗せてた、高級そうな車が遠ざかって行った。……運転手くんは、この後あたしとサカキ様がどーなってるか分かってんのかしら。分かってるわよね。子供じゃないんだし。
ここのホテルに来るのも何回目だろう。5回目くらいかな。部屋はいつも最上階のスイートルーム。一体いくらするのかしら。
エレベーターが、ゆっくりと上がる。サカキ様は何も話さず、あたしに背を向けたまま。無口なひと。まあ、何か言われてもそれはそれで困るけど。仕方がないから、やたら豪華なエレベーターの装飾を見る。壁も天井も、どこもかしこもキラキラしてる。こんな所、普段の生活を送ってたら一生ご縁がなさそう。
最上階に着いて、豪華な部屋に入った。ベッドは大きいし、窓からの眺めはいい。置いてある家具も全て高級そうで、あとはとにかく広い。何度も来てるけど、やっぱり落ち着かない。普通の女の子だったら喜ぶのかしら。キャーキャー言ったりして。
「まずは酒だ。何を飲む?」
サカキ様がメニューを広げながら、こっちに聞いてきた。
「あたしは、いつものでいいです。カシオレで」
「たまには、違うものにしたらどうだ。ワインでも、シャンパンでも。何を頼んでもいいぞ」
「いえ、えっと、お気遣いは嬉しいんですけど。あたしは、カシオレが好きなので」
「そうか。まあいい」
お酒はむしろ好きな方だけど、高いものを頼むのは、なんだかいけない気がしている。それしか飲めなくなっちゃいそうで、怖い。いつものアジトでちびちび飲んでる安いお酒が、もう楽しめなくなるのは嫌だ。
……ああ、いつものアジトが恋しい。ここに来ると、毎回そう思ってしまう。どんなに高い車だって、どんなにいい部屋だって、どんなにいいお酒だって、心を躍らせてはくれない。今日も来てしまったなって虚しさが、心をどんよりと包むだけ。
そんな事を思っていると、お酒が来た。サカキ様は色々飲むみたいだけど、今日はウイスキーだ。
「我らロケット団の栄光に、乾杯」
「乾杯」
テーブルに並んで座って、グラスを高く上げて乾杯した。その後は、これでもかという勢いで飲んだ。一気に半分くらい。その様子をサカキ様は楽しげに眺めてくる。
「いい飲みっぷりだ。飲まないと、やってられないか?」
「そうですね!」
「元気がいいな。良いことだ」
「良いんですか!? あたし酒癖悪いですよ」
「その時は、その時だ」
サカキ様はゆっくりとグラスを傾ける。
……余裕がある。それがこのひとの素晴らしいところなんだけど、2人で話さなきゃいけない時はちょっと困る。普段はみんなでギャーギャー話してるから、沈黙が長く続くとどうもやり辛いのよね。
グラスに残っていた酒を飲み干した。少し、体が熱い。胸もドキドキする。酔ってきたらしい。
「……」
「顔が赤いぞ」
「だ、大丈夫です、こんなもん」
「大丈夫なものか。見せてみろ」
サカキ様があたしの顎を掴んで、顔を引き寄せる。
「あっ……」
そのまま、キスをされた。酒の味がする。舌が入ってきて、あたしの舌を絡め取る。あたしはどうすればいいかわからなくて、いつもされるがままだ。
しばらくして、口が離れた。頬が熱を持つ。きっと、さっきよりも顔が赤い。
「甘い酒だな。私はもう少し飲む。先にシャワーを浴びてきなさい」
「分かりました……」
~ 2/5 ~