蜘蛛の糸

鐘屋横丁

     

「入れるぞ。いいな」
「はい、お好きなように……なさって下さい……」
 尻が、すこし痛い。でも、痛みは一瞬です。奥まで入れられると、途端に快感に変わります。——ああ。サカキ様と今、繋がっている。隅々まで満たされるような感覚です。私はなんて幸福なのでしょう……。
「……」
「……サカキ様?」
 その瞬間、。背筋に寒気が走る。
「それで? サカキ様は、どんな風にお前を抱くんだ」
 男はゆっくりと腰を動かし始める。
「……っ」
「教えてくれよ。どうしたんだ、さっきまであんなに悦んでいたじゃないか」
「……後ろ、からっ……」
 そう。いつもサカキ様は後ろから私を抱くのです。今のように正面からする事は、あまり覚えがありません。
「そうか。それもいいが、それではお前の顔が見れないな」
「……」
 違う。明確に、違う。男は邪悪な笑みを浮かべたまま、腰を動かし続ける。この男は、サカキ様ではない。
「いい顔だ。程よく絶望している。この表情が嫌か? サカキ様は、ベッドの上ではさぞかし優しいとみえるな」
 ああ。逃げなくては。やはり逃げるべきだった。でも、身体の自由が利かない。押し寄せる快感に、身体が反応してしまう。サカキ様——サカキ様のかたちをした、この身体に逆らえない。
「おまえっ……はっ……サカキ様じゃ……」
「ん? 最初に言ったじゃないか。私はお前の知るサカキじゃないと」
「っ……」
 やられた。最初から、これがこの男のやり方だったのか。その身体を使って……笑顔で、視線で、態度で、私の心を、惑わせて……
「おっと。私は何もしていないぞ? お前がノコノコ後をついて来ただけだ。お前は、自分から来たんだ。なあ、アポロ」
 また、名前を呼ばれた。その声で囁かれると、もう何も考えられなくなる。心も快感に蝕まれて、ただただ身を任せる事しか出来なくなってしまう。
「あっ……! ああ……! わたし、は……!」
「クク、たまらないな。その表情。そういう顔を見ながら犯すのが、何より好きでね。そら、早く動くぞ」
「やめっ……! やめ、ろ……!」
 男が動きを早めた。嫌悪感は確かにあるのに、身体がびくびくと反応してしまう。


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