蜘蛛の糸

鐘屋横丁

     

「フフフ。いつか本物に会えたら教えてやりたいな。お前の部下はこんなにも可愛く鳴きながら私に抱かれたぞ、と」
「っ……! き、貴様…….」
「お前も教えてやればいい。ごめんなさいサカキ様、他の男にみじめに犯されてしまいました、と」
「ううっ……!!」
 抗えない。シーツを握りしめて、その時が過ぎ去るのをただ待つことしか出来ない。快楽の波に飲まれ続けて、自分の身体にはその時が訪れようとしていた。
「苦しそうだな。そろそろ限界か? イくとき位は優しくしてやってもいいぞ。アポロ」
 男はまたニヤリと笑うと、すっと優しい顔つきに変わった。もう一度。サカキ様の、表情に——
「あ……あっ!」
「お前は私の忠実な部下だ。これからも、側に居てくれ」
 サカキ様が。囁いてくる。囁いて下さる。優しい言葉を。甘い言葉を。こんな、どうしようもなく浅ましい私に。
「サカキ様……! ああ……! 違う、やめろ……!!」
「もう、何処にも行かない。私は、お前だけのものだ」
 美しい瞳が、そこにある。動く唇が、身体が、そこにある。サカキ様が、目の前にいらっしゃる。もう何処にも行かないと私に告げる。本当なのですね、サカキ様! ずっと、一緒に居て下さるのですね……! このアポロ、何処までもお供致します! 地獄の果てまでも!
「サカキ様……! サカキ様、サカキ様……!! あああああああっ!!」
「ぐっ……締まるな……私もイくぞ」
「サカキ様……っ!」

 そして、果てた。男も果てた。絶頂の瞬間は、確かに幸福だった。サカキ様が本当にそこにいるような気がしたが、今にしてみればただの幻だ。途端に、罪悪感が襲ってくる。身体が、震えてくる。嗚呼、サカキ様、私はなんて事をしてしまったのでしょう。お許しください、お許しください……。
「夢は覚めたか?」
 私の身体から肉棒を引き抜いて、気だるそうな顔をした男が聞いてきた。
 違う! サカキ様は終わった後は優しく抱きしめて下さる。やはり違う。違うのだ……。こんなに近くにいて、何もかもが同じなのに、何もかもが違う。なんて恐ろしい事をしてしまったのだと言う後悔の念に苛まれる。
 サカキ様。今、何処にいらっしゃるのですか。助けて下さい、助けて下さい、助けて下さい……。
 
 祈るように念じながら、私の意識はそこでぷつりと途切れた。


~ 7/7 ~