「そ、そういう訳じゃ。ボスは、何かと忙しいですし」
「忙しいからこそ、優先順位は付けるさ。今日の1番は、キミだ。今夜は、情熱的にいこうか。男を熱くさせるとどうなるか、教えてやろう」
そう言うと、頬に優しくキスをしてくれた。胸の高鳴りが最高潮だ。腕から解放してもらった。少し、名残惜しい。
「さて、つまみ食いは終わりだ。お楽しみはこれからにするとして、この山の運搬を手伝ってくれないか」
「はい! 大きい段ボールもらって来ますね!」
多分真っ赤になってるであろう顔を無理矢理笑顔にして、部屋の外に飛び出した。お楽しみはこれから、か。情熱的なボスを想像してみる。深く考えるとまた顔が熱くなりそうだ。全然治まらない心臓のドキドキを抱えながら、倉庫に向かった。
サイドン達と一緒にお菓子の山を片付けて、本部を後にした。
いつものように半歩後ろをついて歩いて行くと、今日は違う道へと向かう事になった。少しグレードの高いホテル。……ボスは先に帰ってしまうどころか、行き先をしっかり用意してくれていた。
部屋に入ると、先にシャワーを浴びて来なさいと言われた。今日は任務で汗にも泥にも塗れてしまった。しっかり洗って、全身を綺麗にした。
「終わりました」
「うむ」
ソファに腰かけていたボスが立ち上がる。何かお酒を飲んでいたみたいだ。グラスが置いてある。その隣には……私が作ったブラウニーがあった。食べてくれてる。味はどうだったかな、口に合っただろうか。後で聞かないと。
髪を乾かしていると、ボスがシャワーを終えて出てきた。
「まだ、かかるか」
「いえ、もう終わります」
あたふたとドライヤーを片付けて、ボスの待つベッドへと向かった。ボスの隣にもぞもぞと入る。
ボスが照明を暗くする。着ているバスローブを脱ぎ始めた。鍛えられたかっこいい身体が露わになる。思わず見とれてしまう。心臓が、またドキドキし始めた。
ボスが、私の身体を包むバスタオルに手をかけた。
「……あ、あのっ」
「何だ」
ボスの手が止まる。
「ブラウニー。食べて下さったんですね」
「ああ」
「その……どうでした? 味とか」
「美味かったよ。甘過ぎず、酒を飲むのにちょうど良かった」
「よかった……」
「話は、それで終わりか?」
「あっ、はい。すみません、こんな時に」
「全くだ。キミは、どれだけ私を待たせれば気が済むのかね」
ボスの手がまた動く。バスタオルは剥ぎ取られて、ソファの上にポンと放られた。
「……すみません、ボス」
「名前で呼べと言った筈だ」
「はい、サカキ様」
「それでいい。私を待たせる、言いつけは守らない。悪い子だな、キミは」
「申し訳、ありません……あっ……」
サカキ様が、私の胸に触れてくる。両手で揉みしだき、先端を指でくりくりと弄られる。
「あっ……はぁ……」
吐息が漏れてしまう。サカキ様は、どんな顔をしているのだろう。暗くてよく見えない。
薄暗い部屋の中で、影が動く。気配をぼんやりと感じる。気づけば、自分の顔の真上にサカキ様の顔があった。顎を掴まれ、唇を親指で撫でられる。キスを、されるのだろうか。自分の心音が高鳴っているのが聞こえる。サカキ様は、右へ左へと唇を撫でるのをやめない。フッ、と小さく笑うのが聞こえた。
「どうして欲しい? 言ってみろ」
「言ったら、してくれるんですか。……キスして、欲しいです」
はっきり言うのは、恥ずかしい。それでもなんとか、声を絞り出した。
「さて、どうだろうな。キミを置いて先に帰るような冷たい男だからな、私は」
また、小さく笑われた。
「その話は、もう……!」
「黙れ。大人しくしていろ。待ちぼうけを食らった男の、持て余した情熱を、1つ残らず受け止めろ」
「はい……」
唇が重なった。すぐに舌が入ってくる。戸惑い気味の私の舌をあっという間に絡め取って、激しく責められてしまう。口から溢れた唾液がどこかへ落ちる。息が出来なくなりそうだ。両手で、シーツを掴む。
あともう少しで窒息してしまう、そう思った時、唇が離れた。サカキ様の目は、じっと私の目を見つめている。真剣だ。
「キミをこんなにも、想っているのに。届いていないのが悔しい」
「そんな……」
うまく言葉が返せない。嬉しい言葉なのに、素直に浮かれただけでは目の前の人を満足させられないのが分かる。
「あと何度、夜を過ごせば伝わる? どうすれば分かる? 朝が来るまで縛り上げて、獣のようにひたすらに犯せばいいのか」
「……」
最初から分かっていたけれど、難しい人だ。大人で、余裕があって、優しいのに、繊細で、たまに不器用だ。
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