……ええい。このままでは、明日も明後日も彼女の事で頭がいっぱいだろう。決意の時だ。連絡を取るくらい、何もおかしな事はない。自然だろう。ムサシ達の話をすればいいだろう。
「ロトム。電話を1件頼む」
「はいはーいロト! 誰にかけるロト?」
「……ヤマト」
「了解ロト! 検索中……ヤマトヤマト……随分お久しぶりな人ロト! それじゃかけるロトよ〜」
プルル……プルルルルル……
呼び出し音が鳴る度に胸がどくどくと音を大きくしていく。唾を飲み込む。楽しみなのか怖いのか、わからないが、緊張が身を包む。
「はい」
心臓がずきりと、音を立てた。スマホロトムのモニターに通信相手が映る。
「……っ」
そこには、変わらない彼女がいた。髪型も、お気に入りのピアスも、凛々しい顔立ちも、長いまつ毛も、柔らかそうな唇も。……表情。表情が、少し違うかもしれない。優しくて、暖かい。こちらを包んでくれるような、そんな印象だった。
自分が喋れないでいると、彼女はふふっと笑って話し始めてくれた。
「久しぶりじゃない。どうしたの? 大体、察しはつくけど」
「ああ……。この間、ムサシ達が突然店にやって来たんだ。それで、ヤマトに会ったって言うから、少し気になって。その……こう……どうしてるかって」
「変わらず元気よ。コサンジの方はどう?」
「コサブロウだ! ご覧の通り、元気だよ」
「ウフフ。このやりとりも久しぶりね。今、何処にいるの?」
「今は、最果ての地の近くで店をやっているよ。パン屋だ」
「あら、そんなに遠くないじゃない! 私はね……」
それから話が盛り上がって、これから会おうという事になった。慌てて服を着替える。出来るだけ上等なものを身につけて、家を出た。
「ムクホーク!」
「南の方角にまっすぐロト〜」
スマホロトムにナビゲートして貰いながら、ムクホークで空を駆ける。夜空には月が昇り、星が輝いていた。この地域は寒いが、その代わり空気が澄んでいて星がよく見える。夜空を駆けるには、心地が良かった。
ムクホークで飛ばせば、すぐに着く場所だった。店の前で、ランプを持ったヤマトが手を振って待っていた。
「待たせたか? 寒いから、中に居ても良かったのに」
「平気よ。あなたこそ、寒かったでしょう。さ、入りましょう」
促されて、店の中に入った。
小物で飾り付けられて、インテリアに凝っているのが窺える。お洒落な内装の店だ。きっと、女性に人気があるのだろう。
「本当はディナーもやっているんだけど、今日はお客さんも居なかったから閉店にしちゃった。貸切よ」
ニコリと笑い、席に通された。
「何になさいますか、お客様? なんか食べてきちゃった?」
「いや、夕飯はまだだ。じゃあこの、ハンバーグのコースを」
「はーい。私も同じものを食べるわ。ちょっと待っててね」
しばらくすると、ヤマトが料理を次々と運んできた。アミューズ、スープ、サラダ、ハンバーグにライス。
「どれも美味そうだな。すごい」
「先に食べてても良かったのに」
「では、いただきます」
どの料理も本当に美味しかった。料理上手だったのか。ヤマトにこんな一面があるとは知らなかった。
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