「お願いします! やったー! 閣下は凄いなぁ、いつの間にかチカゲ様とあんなに仲良くなって……」
「何故だか、懐かれてしまってな」
珍しい事ではなかった。仕事は出来るが流されやすく、はっきりとした自分がない。そういう種の人間には慕われやすかった。自分を他人に任せて、自分の進む道を他人に決められるのが、心地良いのだろう。
チカゲからはあれから、たまに連絡が来る。一度だけ飲みに行ったが、下戸だった。自分の不甲斐なさを、泣きながら嘆いていた。可愛い奴だ。
「ここから見える全部も、見えないその先もロケット団のものなんて、まだ信じられないや」
「そうだな。あまりどこが変わったという訳ではないからな」
抵抗勢力が想定より小さくて安心した。やはり、四天王とチャンピオンに真っ向から勝利できたのが大きかった。国民は我々を受け入れ、不甲斐ないと批判されたのは四天王達の方だった。
「新しく入ってきた人達、みんないい感じだよ。相当強い人もいる」
「そうか。近頃はあまり、訓練所にも寄れなくてすまないな」
「いえいえ、しょうがないですよ。やる事いっぱいあるだろうし……大丈夫、今日こうして会えたし、明後日も会えるし」
「明後日か。うむ。そうだな。昼過ぎだったな?」
「はい。3時に、わたしのお家に来てください」
「分かった。久々の休みに、キミと共に過ごせるのは、幸福だ」
「えへへ。それなら良かったです」
「勿論、今日も幸福だ。キミと過ごせる時は、いつでも」
女を抱き寄せる。にっこりと笑うその唇を、愛おしむように優しく奪った。
……2日後。
手土産はギリギリまで悩んだが、薔薇の入った小さなブーケを買った。花ならば喜ぶだろう。女の笑う姿を想像しながら歩いた。
女の家は、タマムシにある小さなマンションだ。旅ばかりで住む家の無かった女に、ロケット団に入ることになってしばらくしてから、買い与えた。
女は驚いて、とても受け取れないと言っていたが、戦闘教官としての働きと、愛人への贈り物の2つの意味を込めて、身体で払ってくれれば良い、と言った。
女の家は2階だ。階段を上り、白い扉の前に立つ。呼び鈴を鳴らした。
「はい! 今開けますね!」
インターホンから、女の少し慌てたような声が聞こえた。しばらくして、扉が開いた。女が、にっこりと笑う。中から甘い香りがする。玄関に、靴が妙に多い。特に、女の趣味では無さそうな黒革のブーツと、男物の革靴があるのが気になる。誰か、いるのか。
「どうぞ! 今ちょうど、ケーキが出来たところで」
「それはいいな。作ったのか?」
「はい! 手伝って貰って、なんとか」
なるほど。靴の主が見えてきた。廊下を歩き、リビングの扉を開ける。甘い香りはどんどん強くなっていく。
~ 4/11 ~