進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

 スイクンの舌は冷たかった。それでやっと、冷静になれた。周りの大きな歓声を聞いた。あれは、わたしを讃えてくれてるんだろうか。ロケット団のわたしを。
「良くやった」
 いつの間にかボスが隣に居て、頭をポンポンと撫でてくれた。
「頑張りました……」
 思いきり抱きつきたかったけど、人前だったから我慢した。ああ。少し遅れて、涙がこみ上げる。ポロポロと泣いてしまった。
「教官殿〜!!」
 マイムさんが駆け寄ってくる。ミュウツーとアポロさんもその後ろを歩いてくる。
「マイムさん!」
「ええ、皆でずっと応援してましたよ。教官殿ならきっとやれる、と思っておりました」
「ありがとうございます」
 涙が、止まらない。みんなの役に立てた。それが何より、嬉しかった。
 ワタルがこっちに向かって、ゆっくり歩いてきた。
「……ロケット団諸君。素晴らしい勝利だった。我々の負けだ。それは認めよう。
 だが、君たちにはもう1人勝たねばならない者がいる」
「何ですって?」
 マイムさんが眉を顰める。
「やはりな」
 ボスは分かっていたような顔だ。ワタルが続ける。
「ポケモンリーグチャンピオン。名を、グリーンという」
「ああ。ジムで戦った覚えがある。強い青年だ。
 ……どれ、私が行こう」
 みんな、満身創痍だ。ボスはこうなることが分かっていたから、わたしがワタルと戦うのをあっさり許したのかもしれない。
「待て、サカキ」
 ミュウツーが言う。
「暴れ足りない。お前の手持ちとしてでいい。私を連れて行け」
「いいぞ。6体目として、お前を使うとしよう。飽きない戦いになるぞ」
 皆で次の扉へ向かった。
 1回だけ、振り返った。ワタルはまだ、こちらを見ている。険しい表情をしていた。わたしが、ロケット団じゃなければ。ジムをちゃんと巡って、まっすぐ四天王に挑みにきたら。きっと、それを考えてる。戦いの中でも、その気持ちが見えていた。……でも、ごめんなさい。それは無い道なの。
 また、前を向く。皆が居る。わたしは、前に足を進める。
「……アポロ。どうした、歩けないのか」
 アポロさんは、マイムさんに支えられながら歩いていた。
「は……キクコとの戦いで少々負傷し……面目ありません」
「この方、すごく無茶をなさったんですよ。全くもう」
「うるさい、おまえは黙って支えなさい」
 アポロさんは口を挟んだマイムさんを、キッと睨みつける。
「その元気があれば大丈夫だな。良くやった。お前なら必ず倒せると信じていた」
「はい! このアポロ、サカキ様の命ならば必ず成し遂げます」
 アポロさんの顔が明るくなる。本当に嬉しそう。
「ああ。お前は良くやった。マイムも、ミュウツーも、良くやってくれた。お前達のような忠実で有能な部下に恵まれて、私は幸せ者だ。
 この後は私とミュウツーで行く。後ろで眺めていてくれ。お前達が後ろにいるだけで、私も力が湧いてくる」
「はい!」
 皆で返事をした。チャンピオン、どんな人なんだろう。でも、ボスならきっと負けないよね。ううん、負けないに決まってる!


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