カイリューは攻撃の反動で動けない。今のうちに、少しでも体力を削らないといけない。
「サイコキネシス!」
「ほう……!」
カイリューが苦しそうな顔をする。効いている! もう一撃入れたい。間に合うか。
「君のモルフォン、よく育ててあるな。レベルがえらく高いのが分かるよ。だが、それも一回きりで終わりだ。カイリュー! ドラゴンダイブ!」
「モルフォン! もう一度サイコキネシス!」
動け、動け!
先に動いたのはモルフォンだった。サイコキネシスに、カイリューはますます苦しそうな顔をした。けれど倒れず、ドラゴンダイブを放ってきた。
重い一撃。モルフォンは耐えきれなかった。地面に倒れる。でも、それでいい。十分に相手の体力が削れた。よく頑張ってくれた。
「モルフォン 戦闘不能」
あと1体。信頼はしてるけど、上手く使えるか分からない。相性は決して悪くない。信じていくしかない。
「行くよ」
ボールを顔の前に持ってきて、ボール越しに、そう呟いた。目がまっすぐこっちを向いている。そうだ。わたしが信じてあげないで、どうするんだ。たったひとりの、この子のおやなんだから。勝つ。この子なら、勝てる!
「スイクン! しんそく!」
「おお……!」
スイクンは場に出ると、目にもとまらぬ速さでカイリューにとどめの一撃を喰らわせた。
「カイリュー 戦闘不能」
ワタルは少し驚いた様子だった。
「……美しいポケモンだ。ジョウトの、伝説のポケモンだったかな。それが君の切り札か」
「はい。ジョウトで捕まえました。これで、1対1」
「うむ。俺のポケモンは変わらない。さあ、終わりにしよう」
ワタルが、最後のカイリューを場に出す。咆哮! 地面が震えるような迫力だ。でも、スイクンは冷静だった。怯える様子はない。
「スイクン、れいとうビーム!」
「カイリュー、かみなり!」
「っ!!」
スイクンのれいとうビームは確かに当たった。だが、余裕そうなそぶりでかみなりを放ってくる。かみなりはスイクンを貫いた。スイクンは大きなダメージを負って倒れてしまった。
「スイクン!!」
声が、届いているだろうか。これが限界なんだろうか。スイクン。どうかお願い、もう一度……!!
スイクンは、ゆっくりと立ち上がった。頭をフルフルと振った。問題ない、と言うように、ちらりとこちらを振り返った。もう一度はない。次が最後だ。
「スイクン、ふぶき!」
「カイリュー、ドラゴンダイブ!」
スイクンが今度は吠えた。ふぶきを放つ。命中率にやや不安のあるわざだったが、もうこれしかない。れいとうビームでは削りきれないし、他のわざでは有効打にならない。
……当たった。カイリューの身体を氷のつぶてが襲う。雪が容赦なく降りそそぐ。
カイリューは、ゆっくりと倒れた。
「カイリュー! 大丈夫か! しっかりしろ!」
ワタルはカイリューに駆け寄る。まだ、立ち上がってくるのだろうか。判定はまだなのか。時間がゆっくりに感じる。スイクンは大きく息をしている。今ので力を使い果たしたような様子だ。
「カイリュー 戦闘不能 勝者 チャレンジャー」
「……勝った」
勝った。四天王最後の1人に、勝った。それはとても大きな事で、うまく受け止められなかった。はしゃぐ気になれなくて、腰が抜けてしまった。ヘナヘナとその場に座り込んだ。スイクンが駆け寄ってきて、ペロンとわたしの顔を舐めた。
「冷たいよう、スイクン」
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