進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     


 
 
 
 冷たい風が頬を撫でる。ちょっと、寒いのかもしれない。でも今は、暑いか寒いかも分からない。今のわたしには、観客の声援も聞こえない。
 戦況は、五分五分くらい。なんとか、3体倒した。でも、本当はここに来るまでにリードしていたかった。ワタルの手持ちは調べてあって、最後の3体は全部カイリューな事がわかってる。
 カイリュー。強力なドラゴンポケモン。能力が高いのに加えて、覚える技が豊富過ぎる。もちろん使うわざも調べたけど、どれがどのカイリューなのか分からなくて、対策が難しい。
「行くぞ、カイリュー!」
 来た! バトル場にカイリューが現れる。
「フシギバナ! どくどく!」
「カイリュー、しんぴのまもりだ」
 わたしのフシギバナの方が、一瞬早かった。相手のカイリューをどく状態にする。でも、しんぴのベールは状態異常を防ぐわざだ。この作戦はもう二度と使えない。
「君のパーティはどいつも毒タイプだ。じわじわと相手を弱らせる事に長けている。だが! このカイリューにそんな小手先の戦法は通用しないと思いたまえ!」
「フシギバナ、やどりぎのタネ!」
「まだ使うか! カイリュー、だいもんじ!」
 カイリューが炎を吐く。こちらの弱点だ。前の戦いのダメージも残っていたフシギバナは、ズシンと音を立てて倒れてしまった。
「フシギバナ 戦闘不能」
 判定マシンが告げる。
「くっ……! 行って、ニドクイン!」
 ボールからニドクインが飛び出す。
「カイリュー! げきりん!」
「ニドクイン、耐えて! れいとうパンチ!」
「何っ!?」
 ニドクインは、並の攻撃じゃ倒れないように育ててる。どんなわざも一撃はへっちゃらだ。そして、覚える技が豊富なのはこっちも一緒。苦手な氷攻撃と毒のダメージで、カイリューは苦しそうに倒れた。
「カイリュー 戦闘不能」
 まずは1体目……!
「やるな。まさかそんなわざを覚えているとは思わなかった。そら、次だ」
 ワタルがボールを放る。2体目のカイリューが場に出てきた。
「ニドクイン、もう一度れいとうパンチ!」
「させない。はかいこうせんだ」
 ワタルの声は冷静だった。
 ニドクインは、大柄なポケモンだ。行動は、どうしても遅くなってしまう。れいとうパンチより先に、禍々しい色の光線がニドクインに命中する。
 ニドクインはぱたりと倒れた。
「ニドクイン 戦闘不能」
「ぐ、うっ……!」
 こちらの手持ちは残り2体。状態異常は封じられている。あっちは、力のぶつかり合いで負けない自信がありそう。出来ることなら乗らずに何か他の作戦で攻めたいけど、それをさせてくれそうにない。……自信がないよ。思わず弱音が出そうになる。でも、やるしかない。残りのポケモンを信じるしかない。ボールを、ぎゅうっと握りしめた。
「行って、モルフォン!」


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