「マルマイン! でんじは!」
「ゲンガー、シャドーボール!」
まずは、麻痺させる。マルマインでは倒しきれない。ゴルバットも使っていかなければなりません。
……マルマインが苦しそう。シャドーボールの当たりどころが悪かったと見えます。運が、無い。もう一撃放っておきたかったのに。
「マルマイン 戦闘不能」
判定マシンがそう告げると、観客達の声が大きくなる。やはり、五月蝿い。五月蝿い五月蝿い五月蝿い。
静かにさせましょう。この手で。
「来なさい、ゴルバット」
ゴルバットをボールから出し、シャツの右袖を捲ります。
「さあ、ご飯の時間ですよ」
ゴルバットは、意図に気づいてくれた。躊躇う事なく私の右腕に噛みつき、容赦なく血を吸い取る。ごくごくと、美味しそうに。
「!!……あんた……そこまでして……」
婆あとゲンガーが驚いた顔をしている。観客達も静まって、ざわつき始めた。
「キクコ。私は、何があってもこの先に進まなくてはなりません。勝たなくては、ならないのです。さあ、行きますよ」
弱っていたゴルバットはすっかり元気を取り戻した。麻痺して動きの鈍っているゲンガーに真っ直ぐ、正面から向かって行く。
「ゲンガー、シャドーボール!」
「ゴルバット、かみくだくッ!!」
ゴルバットは、シャドーボールをヒラリとかわすとゲンガーの頭にガブリと噛み付いた。手で振り払われる。私が命令するより前に、もう一度噛み付いた。ゲンガーはうずくまり、やがて倒れた。
「ゲンガー 戦闘不能 勝者 チャレンジャー」
判定マシンの声を、ぼんやりと聞いた。
「勝った……」
「思った通りだ。本当に執念深い男だよ、あんたは」
婆あは、やれやれとでも言いたげな顔をしている。
「ふふ、ふ……。私は、そう言う男です」
視界が、少しぐらつく。軽い貧血を起こしているのだろう。はやく、次の扉に……。
「アポロさん!」
「マイム……」
マイムとミュウツーが近づいて来る。きっと彼らは、余裕をもって勝ったのだろう。こんな滅茶苦茶な手段を使った私と違って。
「全く、あんな無茶をして! 歩けますか? 肩を貸しますから」
「礼を……言います……」
マイムに支えられながら、ゆっくりと扉まで歩いた。
「……サカキ様は、きっと……私のように執念だけで勝つような男を軽蔑なさるでしょうね……」
「そんな事、無いですよ」
「あのお方は……いつも……大きな力で……相手を圧倒するような……戦いを……なさるんでしょうね……傷一つ負わずに……
こんな……醜い……私とは違って……」
「……。もう、喋らない方がいいですよ」
マイムは何か言いたげだった。一緒に働いて居れば、あのお方の戦うところを何度も見ているだろう。本当に、羨ましい。私も、おそばに、仕えたかった……。
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