進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     


 
 
 
 ああ。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。
 観客達の呑気な歓声も、マイムの応援の声も、自分の心音さえも五月蝿かった。……その点、婆あと、婆あのポケモンは静かで良かった。冷静になれる。……アーボックを倒して、残りはあと2体。調べによると、両方ともゲンガーのはずだ。相性の良いヘルガーで押し切る。
「まだまだ、ここからだよ! ゲンガー!」
 婆あがボールを放る。ゲンガーが元気よく飛び出し吠えた。
「マルマイン、戻りなさい。行け、ヘルガー!」
「ゲンガー、ヘドロばくだん!」
「ヘルガー、かみくだく!」
 互いのわざがぶつかり合う。ヘルガーは、毒を受けてしまったようだ。苦しそうだ。……どうする。あともう1体、控えている。行けるか。考える暇はない。考えれば考えるだけ、毒はヘルガーの身体を蝕む。
「ゲンガー、もう一度だよ!」
「ヘルガー、もう一度です!」
 再び、互いの技がぶつかり合う。ゲンガーが先に膝をついた。前に倒れこむ。
「ゲンガー 戦闘不能」
 判定マシンが勝敗を告げる。あと1体。こちらは、手負いが3体。
「……ヘルガー、少し無理をしてもらいますよ」
 ぽつりと、呟く。ヘルガーは元気にガウッと吠えた。……もう既に、無理をさせている。ヘドロばくだんにこれ以上耐えられるとは思えない。
「行きな! ゲンガー!」
 婆あの最後の1体は、やはりゲンガー。先程の個体より、少し大きい気がする。
「ヘルガー、何がなんでも当てるのです! かみくだく!」
「ゲンガー、シャドーボールだよ!」
 何がなんでも。毒が身体を回って、四肢が痛んでも。シャドーボールを正面から食らって、視界がふらつこうとも。ヘルガー、お前の痛みは分かります。けれど今はそれしかない。酷な命令しか出来ない主人を、後で恨んだって構わない。ただ、この一撃は、通しておくれ。
 ヘルガーは、確かに噛み付いた。だが、もう深くまで牙を立てる力がなかった。わざで言うなら、かみつくだ。かみくだくまでは、至らなかった。ゲンガーに振り払われて、倒れ込んだ。もう、起き上がる事はなかった。
「ヘルガー 戦闘不能」
 判定マシンが喋る。ボールに戻します。本当に、良くやってくれました。おまえは、私の誇りです。……ここからは、ゲンガーの残りの体力をいかにして削るか。考えねばなりません。どうしても勝たねば、ならないのです。敗退は許されません。ロケット団に、勝利を。たとえ死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。死んでも。
 ……妙案が、思いつきました。どうなるか分かりませんが、試してみます。今よりは、よく転ぶ筈。


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