進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

 
 
 
 昂りが、抑えられない。
ずっとお会い出来なかったサカキ様と肩を並べて進軍する、喜び! 我々の作戦が進み、四天王のところまで来た、喜び! 聞こえる歓声がさらに己を奮い立たせる。それが自分に向けてられているものでなかったとしても。
 バトルフィールドは、壁と天井に囲まれた屋外にあるはずなのに薄暗い場所だった。並べられているのは灯籠と、墓石だろうか。
「男が2人に、お嬢ちゃんが1人かい。どいつも強そうだねぇ。ジムリーダーにでもなって、安穏と暮らしたらいいのに。ま、それが出来ない連中なんだろうね」
 墓石の一つに腰かけていた老婆が立ち上がる。
「あたしはキクコ。誰が相手だい? 手は抜かないよ」
「アポロ」
「はっ!」
 サカキ様の声は、優しくも力強い。名前を呼ばれただけで、胸がいっぱいになる。ええ。やり遂げますとも。成し遂げますとも。勝利を約束致します。この身命を賭しても!
「お前が、一番相性がいい。強敵だが、勝てない相手ではない。行ってこい」
「はい。必ず」
 嬉しい。私の目を見て語りかけて下さる。涙が出そうだ。負けるわけにはいかない。勝って、必ずお褒めの言葉を頂く。それはなんとも甘美なものだろうか。想像するだけで心がとろけそうだ。
「サカキ様、どうかご無事で」
「ああ」
 サカキ様と教官が先の扉へ進む。
 ああ。サカキ様。なんて美しい後ろ姿。その影さえも美しい。
「あんたが相手かい。執念深そうな男だ。毒タイプが似合いそうだね」
「黙りなさい、婆あ。言われなくとも毒タイプは使います。ゴルバット!」
 ボールからゴルバットを出す。
「ふふ……。それならこっちもこうだよ」
 キクコがゴルバットを出してくる。
「ゴルバット、分からせてやりなさい!かみくだく!」
「ふん、こっちもかみくだくだよ、ゴルバット」
 ゴルバット同士が大きな口を開けて揉み合っている。私のゴルバットの方が、少し身体が大きい。
「ゴルバット、確実に行きなさい。脚を狙うのです。次に翼を!」
 ゴルバットは、命令通りに動いてくれました。相手の左脚に噛みついて、怯んだところで翼を噛み砕く! 2体は絡み合いながら落下していきます。先に地面に落ちたのはキクコのゴルバット。
「ゴルバット、まだやれるね。エアスラッシュだよ!」
 キクコが指示を出す。
「では、こちらもエアスラッシュを!」
 地面に落ちたゴルバットが起き上がり、エアスラッシュを打ち出す。明らかに、威力が高い! ゴルバットは食らってしまったが、まだ耐えている。こちらのエアスラッシュも命中したが、小さな当たり。戦って初めて、分かることもある。恐らく、相手は特殊攻撃と特殊防御を鍛えている。ならば、物理攻撃で攻めるが定石通り!
「もう一回、エアスラッシュだよ!」
「ゴルバット、もう一度かみくだく! そこから、とんぼがえり!」
 ゴルバットは相手のエアスラッシュを少しかすりながらも、見事に相手の頭にかみくだくを決めまてくれました。とどめに、頭突きをお見舞いしてとんぼがえり! 私のボールの中に戻ります。あちらのゴルバットはフラフラと地面に落ち、動かなくなりました。
「ゴルバット 戦闘不能」
 判定マシンが勝敗を告げる。歓声は大きくなる。観客はどよめいているのか、喜んでいるのか、よく分かりません。
「ほう……、なかなかやるじゃないか。次はコイツさ、マタドガス!」
「気が合いますね、婆さん。私もマタドガスで行きましょう」
 バトル場に2体のマタドガスが浮かぶ。なかなかない光景だ。
「マタドガス、あくのはどう!」
「シャドーボールだよ」
 わざがぶつかり合う。フィールドにあった墓石やら壁やらは、脆い作りなのか戦いの中でヒビが入っていた。
 マタドガスは、些か辛そうだ……少し、自分には荷が重すぎた? 一瞬、そんな弱気が頭をかすめた。でも、ほんの一瞬だけだ。1体目は倒した。ゴルバットは、良くやってくれた。マタドガスも、まだ負けたわけではない。順調なはずだ。いける!


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