進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

 ボスが喋り出した。
「まずは、諸君。おはよう。ロケット団をまとめている、サカキという者だ。
 知っての通り、我々ロケット団は今、カントーを中心に町の占拠を行なっている。既にカントーとジョウトのジムリーダーは全て倒させてもらった。これから全国へ進軍するための足がかりとして、カントーとジョウトの諸君には少し我慢をして貰う事もあるが、なに、大した事ではないので安心して欲しい」
「我慢、というのは具体的にはどう言った事なのでしょうか」
 チカゲが問いかける。全ては打ち合わせ通りの内容だ。
「町にロケット団員がうろつくのを見過ごして欲しい。ほぼ、それだけだ。我々は諸君が逆らわなければポケモンを奪ったり、傷つけたりはしない。金品の類も盗ったりはしないだろう。
 現在は抵抗を受けた際に預からせてもらったポケモンが何体かいるが、明日から解放する」
「はい。皆さん慌てずに、明日の朝9時以降、こちらのポッポビルにお越し下さい。皆さんのポケモンが帰ってきます。
 どうかその際に、戦闘行為はなさらないようご協力をお願いします。抵抗したとみなされる事になれば、ポケモンをお返しする事が出来なくなります」
 チカゲが原稿を読み進める。
「諸君の理解ある行動に期待している……む」
 突然の出来事だった。目の前に覆面姿の人物が現れ、何かをボスに向かって投げた。
 危ない!
 そう思うより早く、ボスの足元の地面が溶け、机の影からポケモンが飛び出した。
 さっきまで地面だったポケモンは、ボスの身体にまとわりついて攻撃を防ぐ。ベトベトンだ。小鬼の手持ちのはずだ。投げつけられたものは、2個の手裏剣だった。左胸を狙っていた。ベトベトンのどろどろの体は手裏剣を絡め取り、ボスを守る。
 さっきまで影だったポケモンは、覆面姿の人間に飛びかかる。小鬼のゲンガーだ。
「ゲンガー! 逃がさないで! シャドーパンチ!」
 姿は見えないが、このスタジオの何処かに居るのだろう。小鬼の指示をする声が聞こえる。
「ぐっ……」
 ゲンガーの攻撃を受けて、覆面姿の人間が倒れる。
「手裏剣か。セキチクの忍者だろう。連れて行け」
「はっ」
 スタジオにいた下っぱ達が覆面姿の人間を連れて行った。ベトベトンは再び、地面に潜む。ゲンガーもまた、テーブルの影に戻る。
 まさかボスを直接狙ってくる奴が居るとは思わなかったし、このスタジオに、2体もポケモンが潜んでいるとは思わなかった。
 特に、ベトベトン。悪臭がする事で有名なポケモンなのに、全く臭いがしなかった。さすがは小鬼……いや、教官。対応が見事だ。自分のポケモンを上手く使って、ボスの護衛をしっかりこなしている。自分が同じ事が出来たかと言えば、無理だろう。教官はやはり凄い。
 そして、ボスも凄い。先程の出来事をなんでもなかったかのように振る舞っている。自分が直接狙われたのに、落ち着きすぎじゃないのか。これは、生放送だ。今の戦いが映ってしまっただろう。この様子を見て、国民はどう思うのだろう。


~ 25/45 ~