——3日目——
……意味のない一日が、始まった。昼前に起きて、しばらく天井をぼうっと眺めた。早く起きる必要が無いというのは、僕にとっては辛かった。何をする気力も湧いてこない。どうせ、そんなに遠くにも出歩かず、大したものも食べず、部屋でゴロゴロして、また寝るのだろう。
数日前までは、ちゃんと仕事もあった。毎日、忙しかったけれど充実していた。そんな日常がある日、突然終わってしまった。
起き上がって、テレビをつける。意味がない行為なのは分かっていた。画面には「受信出来ません」の文字が浮かぶ。どのチャンネルに切り替えても画面は変わらない。
「……やっぱりダメか」
テレビを消す。
ロケット団が、カントー地方をほぼ制圧したという。街を団員が歩いているのも、珍しい光景では無くなった。最初のうちは、ニュース速報が出ては侵攻についてキャスター達がああだこうだと言っているな、という印象しかなかった。仕事も普通に進んでいたからだ。昨日の夕方、カントーのテレビ局が乗っ取られて、停波。そのうち他の地方のテレビも映らなくなった。ラジオも同じらしい。そうなると、ただのタレントである僕の仕事は無くなってしまった。
ただのごろつきの集まりだと思っていた。まさか、本気でこの国の制圧に乗り出すなんて思ってもいなかった。この国は、これからどうなってしまうのだろう。不安ばかりだ。胸を締め付けられる思いがする。
「……やぁん」
飼っているヤドンが、自分の皿をくわえてこっちに歩いてくる。
「そうだね、ごはんの時間だね」
ヤドンの皿に、ポケモンフードを袋から注ぎ入れる。
「やぁん」
ヤドンは飼い主の胸にある不安などまるで気にしない様子で、フードをカリカリと食べていた。物流などは、止まっていないようだ。買い物の心配は大丈夫。インターネットも繋がる。どこの見出しも誰のページもロケット団の事ばかり書いてあって、読んでいないけど。
「ロケット団も、お前みたいな平凡なポケモンは盗らないだろうね」
「やぁん?」
口の周りをフードの食べカスまみれにしながら、ヤドンはこちらを振り返った。
……その時だった。
ピンポンと、呼び鈴が鳴った。ここはオートロックのマンションだけど、エントランスの呼び鈴ではなかった。何者かがロックを通過して、扉の前にいる事になる。……隣の人かな。昨日はやけになって酒を飲んで、かなり大きな音量でテレビゲームをしてしまったから、うるさかったのかもしれない。
出るかどうか悩んでいると、またピンポンと呼び鈴が鳴った。扉の前で、待っているようだ。とりあえず、走った。水で顔を洗う。適当な上着を羽織る。インターホンのカメラを見たが、知っているような……どこかで会ったことのあるような……少し曖昧な人物だった。今はそれでも良かった。誰かに会いたい気分だったからだ。
~ 20/45 ~