「やった……!! サカキ様に、直々にご下命を賜った!」
アポロさんが空に向かって吠えるように叫ぶ。喜色満面のご様子で、よろしい事です。
「良かったわね、アポロ。頑張りなさいよ。あたくし達は、もう少し抵抗勢力の相手をするわ。気にせず行ってらっしゃい」
「しくじるんじゃねえぞ〜」
「四天王ともなると強敵ですね。気をつけて」
3人が口々に激励の言葉を述べます。
さて、これでジムリーダーはあらかた撃破出来ました。次はいよいよ四天王。本来ならここまでやったのですから、あちらが出向いてくるべきです。それをこちらから行かなくてはいけないのが少し癪に触りますが、まあいいでしょう。
せっかくジョウトに来たので、少しぶらぶらしましょうかね。美味しいお菓子を食べて、温泉に浸かって……。
「では、私は失礼します。明日、アジトにお邪魔しますね。一緒に行きましょう」
「いえ、私は今すぐ移動します。一刻も早くサカキ様にお会いするために。今夜の宿はワカバで確保します」
「あら。では私もそう致します」
「何も、ついて来なくてもいいですよ。おまえの事だから、どうせ観光気分で温泉宿でのんびりするつもりでしょう」
あらまあ、すっかり見透かされてました。その通りですね。
「サカキ様はふたり一緒に、と仰っていました。ここはふたりで行動するのが自然でしょう?」
「ぐぬ……! 分かりました、同行を許可しましょう。先程は、大きな借りを作ってしまいましたからね」
「うふふ。良いところを見せられて、嬉しいです」
「……見事な戦いでした。私には、とても真似出来ない戦い方だった。おまえの強さは認めましょう」
「ありがとうございます」
「ですが! サカキ様の側近にふさわしいのは私です。それを忘れなきよう」
びしりと人差し指をこちらに突き刺して、アポロさんは言いました。そして背中を向けて、ワカバの方へさっさと向かってしまいました。
「許してあげて。あれで相当、あなたのことを認めているのよ」
アテナさんが優しく微笑みながら言いました。
「ええ。分かっていますよ。ご心配なく」
私も微笑みながら答えました。ラムダさんとランスさんも笑っています。ああ、ようやくこの人達と笑う事が出来た。素直に嬉しいです。
3人にさようならを告げて、身体の細胞を作り替えます。ケンタロスに化けました。アポロさんの行った方へ駆けていきます。時間は、日が暮れかかった頃。この姿で走ると、少し冷たい風が心地良いです。
……すぐに追いつけました。前だけ見てずんずん歩いていたアポロさんの隣を走ると、驚いた顔をこちらに向けました。
「マイム! マイムなのですね……」
減速して、静止します。ブルルと鼻を鳴らして、ゆっくりと両脚を曲げて地面に座りました。
「私に、乗れという事でしょうか? 確かにその方が早そうですね……いいでしょう」
アポロさんが、私に跨ります。
「ハイッ!」
胴を蹴られました。落とさないように、気をつけながらまた走り出します。
いつか、アポロさんとも笑い合える日が来るのでしょうか。いえ、すぐそこまで来ているのでしょう。そんな気がします。そんな事を考えながら、ワカバまで駆けるのでした。
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