進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

「僕は降伏します。リーダーに勝てっこないし、戦う気になれないや……。今まで僕たちに沢山の事を教えてくれた事、感謝します」
 ダグトリオとサイホーンをボールに戻した。リーダーは少し微笑んでいるように見えた。
「オレは、納得いかねえ! きっとリーダーの偽物だ! 行くぞ、ニドキング!」
 タクヤは明らかに動揺しながら、向かっていった。ニドキングがまた吠える。
「仕方あるまい。では、こちらもニドキングだ」
 リーダーが、ボールからニドキングを出した。タクヤのニドキングより、少しだけ身体が大きい。レベルはそんなに離れてないはずだ。どうなるんだ……。
「ニドキング!じしん!」
 タクヤのニドキングが気を集中させる。そこへ、わざを撃つ前にリーダーのニドキングが飛び込んで来た。
「にどげり」
 タクヤのニドキングはじしんが撃てなかった。リーダーのニドキングに転ばされ、ゆらりと立ち上がる。
「ッ……! じゃあ、メガホーンだ!」
「背後に回れ。ちきゅうなげ」
 リーダーのニドキングは素早く背後に回る。暴れるタクヤのニドキングをしっかりと掴んで、ちきゅうなげが決まった。また、タクヤのニドキングは技が撃てなかった。
「タクヤ。お前は大技を好むところがある。それは決して悪いことでは無いが、大人しく撃たせてくれる相手ばかりでない事を覚えておけ」
 リーダーが、いつものように悪い点を指摘してくる。指摘の仕方がやっぱり、リーダーだ。改めて思う。タクヤは歯を食いしばる。
「……リーダー! どうしてなんだよ!」
 タクヤのニドキングはまだ、よろりと立ち上がるが、2体の体力の差は見て分かるものだった。
「何も言ってなかった事は、謝る。だが私は、私の元に集まってくれる多くの者達を、見捨てるわけにはいかないんだ。君たちのように」
「!」
 タクヤはまた歯を食いしばった。
「ニドキング! あばれる!」
 タクヤのニドキングが、最後の力を振り絞るかのように吠えた。リーダーのニドキングに向かって飛びかかる。
「ニドキング、じわれだ」
 先程のじしんと同じく、じわれも集中力が必要な技だ。だけど……リーダーのニドキングは、早すぎる! 飛びかかって来たタクヤのニドキングをさっとかわして、じわれを命中させた。タクヤのニドキングは倒れたまま、動かない。
「ニドキング! くそっ……くそっ……!」
 タクヤは、泣いていた。ニドキングをボールに戻す。リーダーもニドキングをボールに戻した。
「……すまない。君たちと過ごした日々は楽しかった。あの日、チャレンジャーに負けた私を暖かく迎えてくれた事が、つい昨日の事のようだ。君たちと向き合っている時の私は、とても充実していた。このまま、ジムリーダーとして余生を過ごそうかと思った事もある。
 だが、私には他にやらねばならない事がある。守る者たちがいる。胸に抱く、使命がある。君たちとこういう別れ方しか出来ないのは、実に残念だ」
「リーダー……。
 ……ありがとう、ございました」
 タクヤが頭を下げる。


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