「今日よりここは、我々ロケット団のものとなる。ポケモンをボールに戻せ。投降しろ!」
「そんな事、させるもんか! 行くぞ、ニドキング!」
タクヤのニドキングが吠える。彼の相棒だ。ニドランの時からとても大事に育てているのを、僕は知っている。
「行け、ギャラドス……」
先頭のロケット団員がボールを構えた。
「待て」
「!」
聞き覚えのある声が、ロケット団員達の方からした。
「私が行こう。お前達には、手に余る相手だ。ここのジムトレーナー達は強い」
「はっ……」
声の主は、ロケット団員達の後ろから歩いて来た。ロケット団員達がさっと道をあける。あれは、……間違いない。
「リーダー!」
思わず叫んだ。良かった。来てくれたんだ。いつもと、少し雰囲気が違う。真剣な目をしている。それでも、リーダーだ。久しぶりに姿が見れて嬉しかったし、助けに来てくれた事にとにかく安心した。でも——
「……。今の私は、リーダーではない。
ロケット団総帥、サカキだ」
リーダーの口から出たのは、絶望に叩き落とされるような言葉だった。
「そんな……! リーダーが!! そんな訳あるかよ!」
タクヤが叫ぶ。他のジムトレーナーも信じられないと言った表情を浮かべている。僕だってそうだ。
「君たちは優秀なトレーナーだ。それは理解している。だからこそ、無駄な戦いは避けたい。私と戦いたい訳ではないだろう」
「……ッ!」
タクヤが下を向く。
「抵抗しなければ、略奪行為はしない。これは私の名にかけて約束しよう。ここを拠点のひとつにさせて貰う。団員達が町の中を歩くのを、許して欲しい」
落ち着いて、頭の中を整理した。目の前にいる人は、確かにリーダーその人だ。表と裏。表の顔がジムリーダーで、裏の顔が、ロケット団の総帥なのだろう。
……でも、分かる。この人は、決して肩書きが欲しかったからリーダーでいた訳じゃない。僕たちにリーダーが教えてくれた事は、全て本物だ。自分でそう思いたいのか? いや、違う。いつだって真剣に、僕たちに自分の持ってるものをなんでも教えてくれた。
片田舎のジムで過ごしてきた、穏やかで優しい日々。けど、そんな日常を越えて、さらに向こう側にあったんだ。この人の本当の生きる道は。
「……なんとなく、分かってました。他に何かあるって。僕たちを指導する時は僕たちを見てくれるけど、リーダー自身の事になるとこんなちっぽけなジムを越えて、いつもどこか遠くを見ているような感じがして。
ああ、リーダーは、何か目的があって強さを求めてるんだって。今、それが分かりました」
「……カズシ」
タクヤがこちらを見る。
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