進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

 リーダーはそれきり、何日経っても戻らない。そろそろ、一週間になる。でも、僕を含めてトレーナーの皆のやる事は変わらなかった。メニューをこなし、試合をして、挑戦者が来れば戦った。
 夜になれば、軽く掃除をして鍵を閉める。
「リーダー、どこに行っちゃったんでしょうね」
 掃除をしながら、話題を振った。
「さあな。忙しそうな人だから、仕事関係じゃねーの?」
「いや、あの言い方はマジだった。何かあるんじゃないかと、俺は思うよ」
 トレーナー達は口々に答える。
「……戸惑うような事ってなんだろう。僕、それが本当に怖くて」
「わからねえなあ……」
「戸惑うような事が起きるって、なんでリーダーが知ってるのかも謎だよな」
「だよなぁ……」
 すっきりしないまま、その日は鍵を閉めて帰った。テレビのニュースでロケット団がどうとか言っていたけど、その時はあまりよく見てなかった。
 
 
——2日目——
 
 ……次の日だった。朝、リビングのテレビを付けると、どのチャンネルもニュース速報を伝えている。大事件じゃないか。昨日、もっと真面目に見ておけば良かった。
 ロケット団がニビ、ハナダ、タマムシ、ヤマブキを占拠したらしい。途中にある町にもロケット団がうろついてる映像が流れる。ここは、トキワシティ。ニビは、そう遠くない場所だ。
「……この事かな」
 きっと、そうだ。ロケット団。ポケモンを使ったあらゆる犯罪を平気でやってのける組織。そいつらが町を占拠するという事は、ジムリーダーがやられてしまったという事だろう。……うちのジムにはまだリーダーは戻っていない。ジムを守るとしたら、それは僕たちトレーナーの役目だ。
「怖いわ。カズシ、あんたも気をつけなさいよ」
 テレビを見た母親が呟いて、飼っているプクリンを抱きしめる。プクリンも察したのか、不安そうな顔でプゥと鳴いた。
「大丈夫だよ。鍛えてるから。ロケット団なんて、やっつけてやるさ。行ってきます」
 そう言って今日もジムへ向かう。心なしか、いつもより人通りが少ない気がした。特にボールからポケモンを出している人は1人も居なかった。みんなニュースを見て、怯えているのだろうか。
「遅いぞ、カズシ」
「ごめん。ニュース見てて。遅れました」
 頭を下げる。ジムトレーナーの皆はもう全員揃っていて、いつものメニューをこなしていた。
「ねえ、もし、ロケット団が来たらどうしよう」
「弱気だな」
 タクヤはふん、と鼻を鳴らした。
「俺たちは十分強い。リーダーが居なくてもロケット団なんか一捻りだ」
「そうだね。リーダーのためにも、しっかりジムを守らないと」
 少し、ホッとした。そうだ。自分たちは今日までしっかり鍛えて来た。弱気になってどうするんだ。
「ダグトリオ、サイホーン。出ておいで」
 ポケモン達を出して、いつものトレーニングを、と思ったその時だった。
 突然、ジムの扉が乱暴に開かれた。
「ここがトキワジムか」
「誰だ!」
 タクヤが叫ぶ。黒服の男達が次々とジムに入ってくる。……ロケット団だ。


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