進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

「奇遇だな。私も同じわざを覚えている。喰らうがいい、シャドーボールだ」
 エーフィがぴくりと反応する。得意の予知能力で回避するつもりだろうが、そうはさせるものか。
 右手から黒い光弾を放った。正面からエーフィに向かって飛ばす。ぶつかる寸前、2つに分裂させた。エーフィはどちらを回避すべきか、困惑してるように見えた。
「エーフィ! 避けなさい!」
「遅い」
 逃げようとするエーフィを、2つの光弾で挟み撃ちにした。急所には当てられなかったが、2つとも直撃させた。倒れたエーフィにナツメが駆け寄る。動揺している。……この程度か。話にならない。残るポケモンも、一撃で倒してやろうか。
「どうした。次のポケモンを出せ」
「っ……! バリヤード! ものまね!」
 ナツメはエーフィをボールに戻し、バリヤードを出してきた。こいつとは、戦った事がある。ロケット団の誰かの手持ちにいた。守りに優れていて、長引かせると厄介だ。
 ものまねは、相手のわざをコピーするわざだ。バリヤードが、シャドーボールを放ってきた。先程自分が放ったものを真似た、2個の黒い光弾が飛んでくる。光弾はクルクルと、身体の周りを回る。なかなかに鬱陶しい。足止めのつもりらしい。その間、バリヤードは次のわざに移っていた。念動力でせっせと壁を作っている。恐らく、ひかりのかべだろう。多少のダメージは覚悟して突破するか。
 わざを出そうと構えると、身体の周りを回っていた光弾が飛んでくる。食らったが、大したダメージではない。
「行くぞ。サイコキネシス」
 ひかりのかべごとバリヤードを吹っ飛ばした。部屋の壁にバリヤードがぶつかる。最も使い慣れてるわざだ。身体に馴染んでいる。多少、壁で防がれているかもしれないが、ダメージはあるはずだ。
「まだ受けきれるか? もう一発だ」
 サイコキネシスをもう一度叩き込む。バリヤードはぱたりと倒れた。
「くっ……! 行くわよ、フーディン!」
 ふと、ナツメの顔を見た。余裕は無さそうだ。だが、まだ諦めた顔はしていない。それでいい。最後まで全力でかかって来い。
 ボールからフーディンが飛び出してきた。出てくるなり、サイコキネシスを放ってきた。強い闘志を感じる。こちらもサイコキネシスを放ちながら、少し距離をとる。振り回されないよう、冷静に相手を分析するんだ。……コイツの進化前の、ユンゲラーとなら戦った事がある。だが、目の前のこいつはレベルが段違いだ。サイコキネシスの一撃が重い。
「フーディン、続けて! サイコキネシス!」
 ナツメが命じる。フーディンがまたわざを放ってくる。まだ余裕がありそうだ。コイツは耐久力もあるのか? ……少し考えて、理解した。バリヤードの、ひかりのかべがまだ残っているのだ。このままぶつかり合いをしていては、少し分が悪い。
「じこさいせい」
「させないで、フーディン! 集中する隙を与えちゃダメ!」


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