進メ、我ラ火ノ玉

鐘屋横丁

     

 ジムの外に出ると、通信が入った。
「マイムか。どうだ、順調か?」
 通信機から、マイムさんの声がする。
「はい。たった今、ニビジムのリーダーに勝利したところです。抵抗しなければ何もない事、しっかり伝えました。これから、ハナダへ向かいます。そちらはいかがですか?」
「タマムシジムは、戦闘する事なく降伏した。これから、ヤマブキへ向かう」
「まあ、戦闘なしで! 素晴らしい事ですね。それでは、また連絡いたします」
「ああ。ひとりで良くやった。お前は、有能だ」
「ふふふ、勿体無いお言葉……。ありがとうございます、では」
「うむ」
 通信が切れた。マイムさんも順調みたいだ。良かった。マイムさんが戦ってるところを見た事がないけど、きっと強いんだろうな。
 ゲートを通って、ヤマブキシティへ。ゲートの警備員さんがギョッとした顔でこっちを見る。でも、それだけだった。涙目になりながらも、通してくれた。
 今更ながら、ロケット団の怖さを思い知る。こうして通るだけでみんな怖がりながらも道を空けてくれるもんね。ボスもミュウツーも堂々としてる。わたしも、少しも気にしない素振りで進もう。ヤマブキジムは、町の奥にあった。町を歩いていると、すれ違う人はやっぱり皆同じような反応。ボスの周りを警戒する気持ちはそのままで、胸を張って歩いた。
 ジムに入るなり、女の人の声が聞こえた。
「……ロケット団の皆さん、ようこそお越し下さいました。ヤマブキジムリーダー、ナツメと申します」
 探したけど、周りにスピーカーらしきものはない。それでも声は聞こえてくる。これは……
「すごい、頭に直接聞こえてくる」
「使うポケモンのタイプだけではなく、奴自身がエスパーなんだ。この程度はお手の物だろう」
 ボスが教えてくれる。
「エスパー能力を使う人間か。そんな奴がいるのか。やはり、外の世界は面白いな」
 ミュウツーが、ニヤリと笑った。なんだか、楽しそうだ。
 また声が聞こえる。
「あなた達の声は3つ。予知通り、3人ですね。足元をごらんなさい。そこに3つワープパネルを用意しました。1人ずつ乗って下さい。運が良ければ、私に会えるでしょう」
「ほう、こちらの戦力を分散させるつもりか。いいだろう。お前達は、ここで待っていてくれ。我ら3人、誰が相手でもナツメに引けを取らないだろう」
 ボスが団員さん達を待機させる。緊張するな。誰が相手でも負けるつもりはないけど、バラバラにされるのはなんだか心細いや。でも、そんな甘えた事は言ってられない。頑張るしかない!
 私は左、ボスは真ん中、ミュウツーは右のパネルに乗ることにした。
 ボスは少し笑った。
「なんだか、心配になってきたな。負けるなよ、ミュウツー」
「む。心配はいらない。お前こそ負けるな、サカキ」
「みんなで勝ちましょう!」
「ああ、そうだな」
 ボスがまた少し笑った。ちょっと、緊張がほぐれる。えいやっとパネルに乗ると、頭が回る感覚がして——別の部屋に着いた。
 目の前にいるのは、……ナツメさんじゃない。サイキッカーの男の人だ。モンスターボールを宙にふわりと浮かべている。わたしに気づいて、ニッコリと笑った。
「ようこそ、ロケット団。君みたいな女の子が来るとは思ってなかったけど。
 リーダーはここには居ない。残念ながら君の相手は僕だ。でも、全力でいくよ」
「はい!負けません」
 ボールに、手をかけた。


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