「やあ、エリカくん。良い日だな」
「まあ……サカキさん。そうでしたの。ロケット団のお知り合いでしたのね」
「そうだな。長い付き合いになる」
「そうでしたの……そこまでは、分かりませんでしたわ。ロケット団のアジトが近くにある事までは分かっていましたわ。ですから、いつかこういう日が来るのでは、と覚悟はしておりました。
可愛いポケモン達を怠らず鍛えて来たつもりですが、お相手がサカキさんでは敵いそうにありませんわね。しかも、随分強そうなポケモンをお連れで……」
「どうかな。やってみないと分からんさ。君にしては、随分弱気じゃないか」
エリカさんが、わたしの方を向いた。
「そちらの方が、以前お見かけした大事なひとなのですね。初めまして。……わたくしには分かります。彼女も、かなり腕が立つトレーナーなのでしょう」
微笑まれた。慌てて、頭を下げる。この状況の中でこんなに落ち着いていて、すごい人だ。
「ああ。私以上だ」
「うふふ。やっぱり、とても敵いそうにありませんわ。投降した場合、わたくしたちやこの町はどうなるのでしょう」
「この町を拠点として使わせて貰う。それだけだ。物資もポケモンも、何かを徴収するつもりはない。普段通りの生活を送って構わない。ただし抵抗するのであれば、容赦はしない」
「そうでしたの。それでは、投降致しますわ。勝てない勝負に出して、ポケモン達をむやみに傷つけるのは、わたくしの本意ではありません」
そう言って、エリカさんは目を伏せた。
「ふむ。君は物分かりがいいな。助かるよ。他のジムもこの調子で上手くいけばいいのだが」
「それはきっと、とても難しい事だと思いますわ」
エリカさんが微笑む。
「そうだろうな。
よし。では撤収だ。次のジムに向かう。お前たち、行くぞ」
「はっ!」
団員さん達が駆け足でジムの入り口へ戻る。私たちは、少し遅れてついていく。
「拍子抜けだな、戦えると思ったのだが」
ミュウツーは首を傾げる。
「あいつは、ああいう女だ。私の顔を見れば、こうなると思っていた。無駄な戦いがないのは、いい事じゃないか。体力が温存できる」
「まあな」
「次は、そうは行かないぞ。ヤマブキのリーダーは、生真面目な女だ。戦いになるだろう」
ボスの顔色は、いつもと変わらない。まるでいつものタスクをひとつ終わらせただけのような、爽やかな感じ。
ジムの中に漂う、不安に満ちた雰囲気。ジムトレーナーの人たちの反応に、わたしはどうしても申し訳なさというか、悪い事をしているんだな、という気持ちが抜けない。
物凄く今更だけど、ロケット団は悪の組織だ。これっぽっちの事、早く慣れないといけない。覚悟が甘いんだろうな。しっかりしなきゃ。
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