「やっと勝てた……!」
女が額の汗を拭う。スイクンに駆け寄り、言葉をかけていた。
「よう。どうだ、負けた気分は」
地面に寝転がり、虚空を見つめたままのミュウツーに声をかけた。
「……むう。サカキか。油断した。あんな勝ち方もあるんだな」
「見ていたぞ。あちらの作戦勝ちだな。安易な挑発に乗るべきではなかった」
「勝ちを焦った。今日で、10戦目だったんだ。今まで全部、勝っていた」
ミュウツーは大きく息を吐いた。
「立てるか?」
バトル場の土にまみれたその身体に、手を伸ばす。
「ん、悪いな」
ミュウツーはその手を取る。なんとか、立ち上がる。身体についた土を手で払ってやった。
「ボス! いらしてたんですね」
女が手を振る。
「ああ。よく勝った」
「みんなのお陰です! 6体がかりで、なんとか。これで、1勝9敗です。もうずっと、何回も、作戦考えては考えての繰り返しで」
「そうか」
女は嬉しそうだ。自分が何度も対策を練って、何度も挑んだ女が、今度はミュウツー相手に同じことをしていた。面白い。自然と笑みがこぼれる。
ミュウツーは、じこさいせいをしていた。柔らかな光がミュウツーの身体を包む。光が消えると、首をフルフルと振って、右肩を回した。
「教官。次は負けない。私も、もっと強くなる」
「うん! また、勝負しましょう」
女が差し出した手を、ミュウツーが取った。ミュウツーの訓練は順調だ。ただ攻撃が強いだけではいけない。勝負の中でしか磨くことの出来ない、判断力や対応の上手さを身につけて欲しい。訓練相手に、女はちょうど良かった。女自身も成長したように思える。
「あれがミュウツーですか。大したものですね」
窓の外のバトル場を見ながら、アポロさんが呟く。
「ええ。まさしく最強のポケモン。味方で居てくれるのが、とても心強いです」
「おまえに、発言を許可した覚えはありません。マイム。おまえも、同じ実験動物なのだから、あれくらいの強さであるべきでは?」
「私は、役割が違いますからねえ。何とも」
にっこりと微笑む。アポロさんは釣られて笑うどころか、嫌悪感を露わにする。いやあ、参りましたね。私、彼にはとっても嫌われているのです。
「……サカキ様の側近にふさわしいのは私だ。おまえではない。いい加減、退いたらどうですか」
たまに会って、口を開くとすぐその話題。よっぽど現状のお仕事に不満がおありなのでしょう。可哀想に。ジョウトでの全ての作戦の総指揮だなんて、優秀でないと務まらない。サカキ様もその事をよくご存知ですから、アポロさんに一任なさっているのに。
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