鐘屋横丁

     


 
 身体を拭いて、バスローブを着た。少し躊躇っていると、女はにっこりと笑い、手を握って来た。そのまま、ベッドまで引っ張られる。優しい子だ。聡い所が、心地良い。
 ……だからこそ、今日の出来事は許せない。怒りと情けなさが込み上げる。どうやら自分は、正気では居られないらしい。いつもは怖がらせないように、胸の奥に隠している激情が、鎌首をもたげてくる。
「……、……」
「何?」
 名前を呼ばれて女が振り返る。その身をきつく抱きしめた。
「ちょっと、その、強い……」
 女は戸惑っている。聞こえないふりをした。このまま、いっそ壊してしまいたい。そうすれば永遠に自分だけのものだ。そんな考えが止まらない。
「許せ」
 絞り出した言葉がそれだった。女は黙る。ゆるやかな女の鼓動が身体に伝わってくる。自分の鼓動はきっと、いつもより早い。
 手を離した。女は不思議そうな顔をしている。女のバスローブをやや強引に脱がして、押し倒した。壁にかけてあった自分の上着から、ネクタイを手に取った。
「お前は、俺のものだ。何処にも行かせない」
 女の両手を引っ張り、ネクタイで手首を縛った。女は驚いた表情を浮かべている。
「離さない」
 縛った女の手を退け、乳を強めに揉みしだいた。
「あっ……!」
「怖いか。この、俺が」
「へ、平気……」
 そのまま、乳を吸う。舌で先端を弄ぶ。いつもより、些か乱暴になっている気がする。だが止められなかった。女を自分のものにしたい思いが、止められない。
「ふぅ……はぁっ……」
 女が吐息を漏らす。少し苦しそうな表情だ。それがまた、劣情に火をつける。
「どうした。感じているのか。あいつらの前でも、そんな顔を見せたのか」
「……」
 女は目をぎゅっと瞑り、ブンブンと首を振る。見せていないの意か、その質問はやめてくれの意か。
「離さない。離したくない。何処へも行かせはしない」
「……ごめんなさい」
「謝るな」
 ろくな言葉が出てこない。不安にさせるつもりは、全く無いのに。自分に腹が立つ。
 くちびるを、塞いだ。激しく舌を絡めても、女は静かに従う。舌を差し出して、自分から動かすことはせず、好きなように、とでも言いたげだった。その従順さに、どこか悲しさを感じた。
 追いつめてどうすると言うのだ。まだ少し、幼さの残るこの女を。何が、全部背負うだ。背負いきれなくて、女にぶつけているだけではないのか。探している答えが、見つからない。そんな気分だ。どこか不安に駆られながら、手探りで砂をかき分けているようだ。
 くちびるを、離した。女はうっすらと微笑んでいる。その表情には、ふとした事でかき消えてしまうような儚さを感じた。胸がどきりとする。興奮なのか、不安なのかはわからない。


~ 7/10 ~