鐘屋横丁

     

 ニドキング達は、ドスンと大きな足音を立てながら男達に迫る。
「にどげり。つのでつく。のしかかり」
「ぐふっ」
 ニドキングが男の1人を蹴り飛ばす。何も言っていないが、きちんと加減しているようだ。男がうずくまる。
 サイドンはつので攻撃する。こちらも同様に、加減はしているようだ。男の衣服が少し破ける。男が吹っ飛ぶ。
「がっ! 痛ってぇ…!」
「ひい……来るな! 来るな!!」
 サイホーンが最後の1人に飛びかかった。足がすくんで動けない男を組み敷く。
「ぎゃあっ!!」
「つのドリルだ」
 3体のツノが回転を始める。ガリガリと、揃って大きな音を立てる。
「ゆ、許してください!」
「誰か、誰か助けて……!!」
 ニドキングは、男の頭をわし掴みにし、ぶらりと持ち上げる。サイドンは、逃げようとした男を捕まえ、服をひょいとつまみながら持っている。相手を完全に組み敷いたサイホーンは、どこか楽しそうだ。笑っている。3体は、恐怖で動けない男達の喉元に、ゆっくりと、一斉にツノを向ける——
「ひいッ!!! ぁ、……」
「うわあああ!! ……」
「た、助け、ふぁ……」
「つまらんな。恐怖のあまり、気絶したか」
 男達は3人とも気絶し、ピクリとも動かなくなってしまった。命じて、地面に降ろさせる。
「こいつらのポケモンは、どうします」
「全て奪え。ロケット団に敗北するという事は、こういう事だと分からせてやれ」
「ははっ」
 ゴルバットを連れた団員が、男たちからボールを回収する。
「教官殿!」
 ユンゲラーを連れた団員が、女に呼びかけている。ユンゲラーが、ねんりきで男達の車の扉を開けたようだ。
「教官殿、立てますか? そう、ゆっくりで大丈夫です。ああ、よくぞご無事で……」
 女が、ふらふらとこちらに歩いてくる。思わず、抱きしめた。良かった。守る事が出来た。本当に、良かった。あのまま何をされていたか、分からない。凌辱の限りを尽くされて、何処か遠い所へ連れて行かれていたかもしれない。命の危険もあった。
 それらを全て考えるだけで、胸が苦しかった。駄目だ。女を失う事など、自分にはもう考えられない。
「……あのっ、ボス……」
「何も、言うな」
「……みんな、見てるから……!」
「構うものか」
 胸元から、すすり泣く声が聞こえる。体温の暖かさを、ゆっくりと感じる。しばし抱きしめて、離した。女の顔は涙で濡れている。
 少し、衣服が乱れている。自分の上着を脱ぎ、羽織らせた。
 2人の団員は、笑顔だ。安堵の表情を浮かべている。戦闘訓練で、最も成績の良い2人を連れて来たのだ。教官の無事が嬉しくない訳がない。
「さて、帰ろう」
「はい」


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