「なあ。キスをして、良いか」
「……今更、聞くのか」
「一応、礼儀として聞いておこうと思ってね。まあ、どう答えても同じだが」
「……」
男はゆっくりと、唇を寄せてくる。試しているのだ。拒否をするかどうか。大きな抵抗は出来ないが、首を振ること位は出来る。
けれど、身体は動かなかった。顔つきや身体は間違いなく自分そのものだが、今ここで主導権を握っているのは男の方だ。男の目には強い光が見える。勝者の目だ。この男に、勝てない。敵わない。逆らえない。
……とうとう拒否が出来ないまま、男の唇が自分の唇と重なった。男はしばし味わったあと、舌を入れて来た。煙草の味がする。きっと、向こうも同じだろう。男は貪るように私の舌を吸った。じゅる、と唾液の音がする。
その後は、さんざん口の中を犯された。私の口の中を、蹂躙するように男の舌が動き回る。かと思えば、愛おしむように私の舌を絡め取っては離す。
息が、苦しい。呼吸する暇も与えてくれない。ぎゅっと、目をつむった。身体が震える。男はそんな私の様子を見て、やっと唇を離した。
「はあ、はあっ……」
口で息をして、酸素を取り込む。私も男も、口の周りは互いの唾液で濡れており、男の唇はぬらぬらと光った。それはとても、扇情的なものに感じてしまった。
「もっといい顔になったな。感じているのだろう? これからもっと、良くしてやろう」
男はそう言うと、今度は下半身に触れてきた。腰や尻に優しく触れながら、少しずつ脱がしていく。
「そうだ、もっと力を抜け……何も気にすることはない。私は君で、君は私だ。私達の間に秘め事は無い。君の最も美しい姿を、私に見せてくれ」
「……」
男が、目を見てくる。この目を見ていると、自分と男に明確な違いがあることを思い知らされる。
男は、敗北をしていないのだ。私がかつてあの少年に味わわされた、敗北の味を知らない。男の目は自信に溢れ、この世の全てを手に入れる強欲さを感じる。
私は君で、君は私。確かにそうだ。だが、違うところも存在する。それを思うと、胸がちくりと痛む。
~ 6/9 ~