視界が、揺れる。ふらつく。回る。酒のせいかと思ったが、そこまでの量は飲んでいない。これは何だ。手が、上手く動かせない。持っていたグラスを落としてしまった。ガチャンと音がする。
「大丈夫か。ほら、ベッドに横になれ」
「ああ……」
意識が、はっきりしない。差し出された男の手を取り、ベッドに倒れ込んだ。
すると男は、……笑った。はははと、声を出して笑った。
「ダメじゃないか。敵地で出されたものに、簡単に口をつけるべきじゃ無いだろう。あまりに、呆気なさすぎる。君はジムやロケット団だけではなく、悪の心も捨ててしまったのかな?」
「こ……の……」
男の言う通りだ。迂闊だった。酒に何か、薬を混ぜられていたらしい。
「さて。もう殆んど抵抗は出来ないだろうが、拘束はさせて貰おう」
男が、何処からか手枷を取り出した。抗おうとしたが、手に力が入らない。あっという間にベッドの上に組み伏せられ、両手に手枷をはめられた。
男はニヤリと笑った。
「マツブサは、細い身体で良い声で鳴く。アオギリは、何回もよがり狂っては射精する。アカギは、声を出すのをいつも堪える。ゲーチスは細すぎて骨が当たる。長い間構わないと拗ねる、面倒な奴だ。フラダリは一番従順だ。好みのコロンの匂いが心地良い。
さて、お前は? お前はどうかな? どんな風に、私を楽しませてくれる?」
「……っ」
拘束された手を動かす。ガチャガチャと、金属が立てる音が虚しく響いた。
「無駄だ。大人しく、私の腕に抱かれろ。
なに、優しくするとも」
男はそう言うと、私の服のボタンに手をかけた。ひとつひとつ、ゆっくりと外していく。妙に優しく丁寧なその動作が、恐ろしかった。ひたひたと足音を立てて、恐怖が歩いてくるような感覚だった。
そのまま、上半身を裸に剥かれた。恐怖が脳を支配する。逃れようなどと、考える事も出来ない。分かるのだ。怯える相手を捕らえて、あえて優しく扱う。自分でも、そうしているだろう。自分にもある支配欲を、いま男に見せつけられている。
「ほう、いい身体をしているな。私なのだから当然か。フフ。自分を抱くのは、どのようなものか。楽しみだな」
男は、私の身体を味わうようにじっくりと眺めた。
「君を連れて来た、本当の理由を教えてやろうか。こうして、夜を楽しみたかったからだよ。ポケモンのように、飼い慣らしてやりたいと思ってね」
そう言いながら、少しずつ身体に触れてくる。……気持ち悪い。自分の手が、自分の身体を這い回る。不思議な感覚だが、嫌悪感と恐ろしさが全てだった。
「怖がらなくていい。身体の力を抜け」
男が耳元で囁いてくる。耳を舐められ、軽く噛まれた。
「っふ、う……」
「そうだ、声を出していいぞ。遠慮は無用だ。こっちは君の感じるところを全て知り尽くしているのだからな」
男は両の耳を舐め終わると、首筋へと舌を動かした。ぞくっとする感覚が走る。それはもはや、嫌悪ではなく快感だった。
「はぁ……」
「いい顔をするじゃないか。興奮するよ。さすがは私だな、サカキよ」
男はたまらないと言った表情だ。自分も、女を抱くときはこんな顔をしているのだろうか。
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