……気づいた時には、どこかの建物の中にいた。まだはっきりとしない頭で、ぼんやりと思い出す。
異世界の自分を名乗る男。ミュウツーを従えていた。異世界など、突拍子もない話だ。しかし男は、紛れもなく自分だった。……信じるしか、ないのか。
「……」
まだ上手く開けられない目で、天井の照明を見た。そうだ、かなしばりを食らって、気絶したのだった。あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
周りを見回す。ベッドの上に寝かされていた。ベッドの他は机と椅子があるだけの、簡素な部屋だった。窓はない。外の様子はわからなかった。
コート掛けには自分の帽子とコートがあった。妙な親切に、不気味さを感じる。
「……ここは、どこだ」
腰に手を当てる。ボールがひとつも無い。持っていかれたようだ。
立ち上がって、外に出る扉に手をかけた。……鍵は無かった。意外に、すんなりと空いた。
「ああ、目覚めたのかね」
扉を開けると、1人の男がいた。あの男ではない。すらりとした体型の、赤髪の男だった。
「……お前は」
「マツブサという。こことは異なる世界から来たものだ。君の事は聞いている。しかし本当に、サカキ本人なのだな」
マツブサは、まじまじとこちらを見てくる。
「ああ。ここには、他の世界からあの男に連れて来られた奴が何人もいるのか?」
「そうだな。何人かは、そうだ」
「ここは、どこだ?」
「彼の城だよ。レインボーロケット団。そう名付けていた。何か計画を立てているらしい」
「レインボー……ロケット団」
ただのロケット団ではない。異世界からの助力を得て、さらに強化されたロケット団……というところだろうか。
「そこを、退いてくれ。あいつに会わなければ。すぐにでも、元の世界に帰してもらう」
「それは、出来ない。君を通すなと、彼から言われているのだ」
マツブサは首を横に振る。
反射的に自分の腰に手をやるが、ボールは無かった。
「ぐっ……」
「悪く思わないでくれ。私もひとつの軍を率いる身だが、ここでは、彼がボスなのだからな」
「……」
その時だった。
「やあ、仲良くしているかね」
あの男が廊下の向こうから歩いて来た。カツン、カツンと靴の音が鳴る。緊張が走った。
「マツブサ、ご苦労だった。下がっていいぞ」
「分かりました」
マツブサが、一礼して去っていった。
「……」
「そう、怖い顔をするな。酒を持って来た。聞きたいことが、お互いに沢山あるだろう。中で、ゆっくり飲もう」
「……分かった」
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